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その19 ハーレムについて

 今回はご要望が多かった『ハーレム』について。

 テーマがテーマだ。女性読者の方にとっては、大変不快に思われる表現も入ってくることとなるので予めご容赦いただきたい。


 『テンプレ』と『ハーレム』はほとんど一体化してるんじゃないかレベルで不可分となりつつあるカテゴリだ。

 今回も今回で、まずは『ハーレム』という言葉の意味から。

 トルコ語でハレム、アラビア語でハリームという単語から転じたもので、イスラムの文化圏を発祥とするものらしい(男が多数の女性を侍らすというだけなら、それこそ石器時代にもあっただろうが)。日本においては、江戸時代の将軍に対して作られた『大奥』が有名だろう。

 イスラム圏における『ハーレム』とは、主に貴族層の男性が自分の経済力を見せつけるためのものだったらしい。要するに「俺はこれだけたくさんの女を養えるんだぜ」と懐の大きさをアピールするためのものだったわけだ。

 日本の『大奥』に関してはご存知の方も多いだろうが、主に子供をたくさん作るため――つまり世継ぎを絶やさないようにするための処置だった。

 意外、というほどでもないだろうが……現実世界における『ハーレム』において、その大半には『恋愛』と呼べる要素が含まれていなかったのだ。

 身も蓋もないことではあるが、『ハーレム』とは男尊女卑の象徴みたいなものだ。

 女を侍らすことは男のステータス。

 子供を作るために将軍様の女になりなさい。

 極めて最低な表現だが、当時の男性視点では、女性とは男をひき立てるための『道具』扱いであったという思想が含まれていたこととなる。

 よってどうあがこうが、『ハーレム』を作る男とは、現代日本人の感性としては紛れもない『女の敵』であったことは想像に難くない。





 しかして、『テンプレ』における『ハーレム』とは比較的円満に形成されていることが多い。

 だが、円満解決している理由はこれまでの考察で既に登場はしているのだ。

 他己紹介の回で出てきた最強のヒロイン――『チョロイン』のことである。

 「理由なんてない、強くて素敵なあなたしか見えない!」「二番目でもいい、あなたのそばにいたいの!」といった、何とも都合のいいヒロインであれば、そりゃあいくら出てきても問題ないだろう。「俺は、お前を手放したくないんだ(歯をキラリン)」という一言で、鎧袖一触(がいしゅういっしょく)の勢いで落としまくれる。

 では、ここでヒロインどもに質問してみよう。


 ――どうしてあなたは『ハーレム』の一員でいられるのですか?


 「だって好きだから」とかそんなおべっかはいらんのだ。本音を言いなさい本音を。

 一応心理学とか異世界での倫理観や文化形態などの考察を総動員して、色々と推測をしてみた。

 なお、内政ものなどで見受けられる政治的な婚姻(こんいん)はここでは除外する。

 

 まず回答その1。

 「だって運命の人だから」「あの人以外なんて考えられないから」

 女性特有の心理として『シンデレラ・コンプレックス』というものがある。

 読んで字の如く、童話のシンデレラのように「いつか白馬の王子様が迎えに来て、私を幸せにしてくれる」という発想を持つに至った心理状態である。

 特徴としては、徹底的なまでの相手への依存。

 自立した考えを持つことなく、常に相手の男性にすべてを委ねようとするのであれば、この心理である可能性が極めて高い。

 一応付け加えておくと、「あの男は私よりも強い。だから何があろうとついていく」といったサバンナのライオン的心理もここに該当することが多い。「自分よりも強い人が、いつか私の前に来てくれる」という願望がないとこういった発言は出ないからだ。


 回答その2。

 「私を守ってくれるから」「彼に付いていけば成功できると思ったから」

 男の経済力の誇示という『ハーレム』の定義を、女性が逆手にとった心理だ。

 一言で言えば、好き嫌いではなく何かしらの打算があって『ハーレム』入りしているケースとなる。

 明日のご飯すら保証されない厳しい異世界生活にとって、安全と衣食住を保証された環境というのは、もしかすると金銀財宝より貴重なのかもしれない。

 まさに虎の威を借る狐。ジャイアンに対するスネ夫。

 生きるためには仕方がないとはいえ、果たしてそこに心の繋がりなんてあるのだろうか?


 その3。

 「あの人は、私がいないとダメだから」

 母性本能を刺激されたがための『ハーレム』の容認。ごく部分的にだが『自己犠牲』という心理も含まれる。

 本来は母親が子供に対して発生させる心理状態だが、子供以外でも、自立が難しい対象に対して同様の心理が発生するとされる。乱暴な言い方をすると、何もできないダメな男に対して「もうこの人は仕方がないんだから」と世話を焼いてあげる性分だろうか。

 なんか……恋愛シミュレーションものにおける、グータラな主人公のお世話をいつもしている隣の幼馴染の姿を見た気がする(拙作(うち)の鈴風さんでは到底無理な領域だ)。


 その4。

 「あの方は偉大な人ですから」「ご主人さまから離れるなどありえません」

 これは異世界特有の『忠誠』や『隷属(れいぞく)』の立場にあたるヒロインからの回答だ。

 心理判断が最も難しいのがコレ。

 一言で心理状態を述べるのであれば『崇拝(すうはい)』が適当なのだろうが……あんまり掘り下げたくないのが本音だ。

 『シンデレラ・コンプレックス』の発展系とも言える『依存』の方向性であり、極端な言い方をすると『洗脳』という領域にまで発展しかねない。

 このようなヒロインが誕生するケースとして、

 精神的に多大なストレスを押し付けられ続けている状態(奴隷だとかずっと牢屋に入っているとか)→そこに主人公が登場し、颯爽(さっそう)と救出→ストレスからの解放、すかさず至れり尽くせりの環境に放り込む。

 ストレスの対義語として、ここでは癒し・弛緩(しかん)の意味を持つ『リラクゼーション』という言葉を用いるが、この「強力なストレス→強力なリラクゼーション」という、マイナスから一気にプラスへと振り切った環境の変化とは、文字通り人を狂わせる(、、、、、、)レベルの幸福感を与えてくる。

 より噛み砕いて言うと、お腹が空いて空いて死にそうだ、という時に食べ物を出された際の心境をより極端にしたものだ。

 そして、この方法をもっと大規模で展開させると、


 魔物の侵略で苦しむ国が「召喚された勇者とは神であり、我々を救ってくれる」という伝承を人々に刷り込む→勇者登場→「おおお勇者様だ!これで世界は救われるぞー!!」


 国家レベルでの『洗脳』すら可能となる。これで魔物の侵攻が激しく、かつ勇者の刷り込みを幼い頃からされていたのであればもう完璧。

 勇者登場によって一気にストレスから解放された幸福感により、主人公しか見えなくなった狂信者が誕生する。

 

 その5。

 「私は彼に償わなければならないのです」

 罪悪感による主人公の『ハーレム』容認。めったに見ないケースではある。

 例えば、勇者召喚で家族と離ればなれになった主人公に対する罪の意識で、彼のために生きることを誓ったお姫様とか。

 罪の意識から来る懺悔(ざんげ)の念から、傷付けた対象に向かって「許し」を求めるという自発的な隷属(、、、、、、)。中には「許し」ではなく「罰を与えてほしい」という意思を持つケースもあるが、それはつまり「裁きを受けることによって許しを得る」という、結局のところ「許し」を求める心理に変わりはない。

 『ハーレム』に組み込むとなると、常に「主人公がそれを望むなら」という、自我をとことん封印した上で、主人公の幸福を望む方向になっていきそうだ。

 なお、拙作“AL:Clear”のメインヒロインであるクロエには、この心理が半分(、、)含まれている(ハーレムではないけれども)。



 さて、ここまで例を取り上げてみたが……うーむ、恋愛要素はどこへやら、である。

 現段階では、ヒロインはただの1人として主人公自身(、、、、、)を見ていない。

 やれ「白馬の王子様~」と酔いしれてしまっているチョロインさんやコバンザメやダメな子を見守る母親や狂信者や罪に苦しむ咎人(とがびと)ときた。

 いや、そもそも『恋愛』ってなんなのよと問われると言葉に詰まるが(こればっかりは今後も考察するつもりはない。型にはめたくないというただの甘ったるい願望だ)、少なくとも主人公は、こんな心境で自分に近付いてくるヒロイン相手では恋愛をしている(、、、、、、、)とは言い難いかと思う。この世界を支配する覇王となって女どもを侍らす、という成り上がり系なら別に1~5のタイプがどれほどいようと問題はないのだろうけども。






 ここから先は、実際に『ハーレム』要素が入った作品を描かれている作家さんからのご意見を参考に、読者が納得する(、、、、、、、)『ハーレム』について考えてみよう。

 政略的、打算的なものではなく、全ヒロインが恋愛感情から主人公のものになる、という仮定の上で考える。

 例えばヒロインがいきなり「好きです、あなたしか見えない! 別の女がいてもへっちゃらです!」ではチョロインまっしぐらなわけだ。

 つまり、いきなりでなければ(、、、、、、、、、)いいということか。

 ゆっくりと時間をかけてヒロインとの交流を重ね(言い方はなんだが、好感度稼ぎである)、その上で恋愛状態になるのであれば納得できる、と。

 では、あえて反論してみよう。


 ――時間さえかければ(、、、、、、、、)、ヒロインは『ハーレム』を受け入れるのか?

 

 違うだろう。

 主人公への好感度が上がったとしても、『ハーレム』に対する理解が深まるわけではあるまい。むしろ「これだけあなたが好きなのに、どうして私だけ見てくれないの」と反発される可能性の方が高い気がするぞ。

 「好き」と「ハーレムの容認」は必ずしも比例するわけではない。

 逆に最大級の幸福を得たいがために、他のヒロインを排除し主人公を独占したいという心理がはたらくのはまったくもって自然な流れだ。

 恋愛ゲームのように、好感度さえ上げておけば何があっても主人公にゾッコンLOVEというわけでもあるまい。当たる傍からヒロインを我が物としていく主人公の姿に幻滅することだって大いにあるだろう。


 根本的な話として、ヒロインは『ハーレム』状態で集団の中の1人(ワンオブゼム)としての評価を受けるよりも、たった1人のヒロインとして主人公から一途な愛情を受け取りたいはずだ。ここで「ハーレムの方が楽だからいいわー」という女性もいるかもしれないが、世の男性諸君はそれをヒロインと認めるわけにはいかんだろう。

 間違いのないこととして、『ハーレム』よりは1人の方がいい、というのは男女問わず偽らざる本音だろう。でも、現実には既に『ハーレム』が形成されていて、それを認めざるを得ない環境(、、、、、、、、、、)になっている。

 この時点で、ヒロインには一種の諦観(ていかん)――自身の幸福に対し、ある程度の『妥協(だきょう)』を要求されることとなる。


 人は常に自身が求める最大の幸福へと向かって歩み続けるが、現実はままならないもの。

 子供のころ夢見たサッカー選手になることができず、別の職業を選んだり。

 初恋の人が別の人と付き合って失恋したが、将来的に別の人と結婚したり。

 人は、心の中で夢見た最大の幸福――『理想』を追い求めたとしても、現実に叶うとは限らないことをどこかで必ず知ることとなる。

 夢が破れてしまったからといって人生が終わるわけでもない。

 理想と現実をすり合わせ、清濁(せいだく)あわせ呑んで生きていくのが人間だ。


 実際問題として、『ハーレム』を否定して主人公を独占しようとしても、他のヒロインとの対立は避けられないし、主人公も単純に悲しむ。

 ヒロイン視点では、「主人公の独占」という幸福と、それを実現するための多大なリスク(特に人間関係)を天秤にかけざるを得ない状況になっているわけだ。

 『理想』と『現実』をすり合わせて、どのような形で決着を付けるのが自分の中の幸福に最も近いのか(、、、、、、)――そういった思考を巡らせたのだろう。

 おそらく、恋愛状態にあるヒロインが複数いて、かつ『ハーレム』を成立させるため、ヒロインたちは『理想』という1番の幸福を諦め、主人公のそばにいるために2番目の幸福を選択するという大人の判断(、、、、、)をした、ということだ。

 これを「俺の魅力がすごすぎるからいくらでも女が寄ってくる。もてる男はつらいぜ」なんて解釈する主人公は、もう死んでしまいなさい。


 なお、ヒロインがこの判断にまで至るには、主人公はもちろん、他のヒロインへの好感度もそれなりにないと成立しない。

 主人公を悲しませたくないのはもちろんだし、同時に他のヒロインたちにも嫌な思いをさせたくない、というジレンマがないとヒロインは悩めない(、、、、)のだ。

 仮にヒロインたちが嫌いであれば、タイミングはどうあれ他のヒロインから主人公を引っ張り出そうとする動きの方が強くなるわけだから、『ハーレム』が崩壊するか、またはそのヒロインを排除するはめになる。





 『ハーレム』におけるヒロインとは、本当に幸福なのか?

 それは男である私が答えを出せるものではないし、それこそ各作品のヒロインに聞いてほしい。

 ただひとつだけ言えることは、主人公はヒロインに「最愛の人と2人だけで添い遂げる」という1番の幸福を捨てさせてしまった、ということだ。

 『ハーレム』ものである以上、現実にはありえない未来だったとしても――ヒロインはその『理想』を一度は夢見ていただろう。

 『ハーレム』とは、そんなヒロインたちの深謀遠慮(しんぼうえんりょ)と主人公への深い優しさが生み出した奇跡とも言えるものなのだ。

 世の男主人公どもは、その事実を決して忘れてはならない。

 1番の幸福を放棄させてしまった以上、主人公にはヒロインを目いっぱいの幸福で満たしてあげる義務がある。

 それでヒロインが心の底から笑ってくれているのであれば――きっとそれが、『現実』における最高の幸福なのだろう。


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