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その16 他人の評価から考える主人公の『見せ方』について

 今回は作中における主人公の評価について。

 要するに、ヒロインやライバル、街の人や敵役、他人から主人公をどう見られたいのか(、、、、、、、、、)だ。

 誰からも愛されたい? 孤高な戦いの道を歩みたい? 正義の味方になりたい?

 そのためには、他人からどのような評価を受けるような立ち振る舞いをすればいいのだろうか。


 例えば、主人公は『善人』と『悪人』どちらの評価を受けたいのか。

 村が魔物に襲われていたとして、困ったから助けるのであれば『善人』だろうし、関係ないからと見捨てるのであれば、大よそ『悪人』としての評価を受けることになる。

 ハートウォーミングなほのぼの生活を送りたいのに、主人公の評価が『悪人』だったら色々と問題だろう。

 主人公の環境や人間関係は、周囲からの評価によって大半が決定されるわけだから、見られ方にだって気を遣いたいところ。

 これを意識することで、自分が作った・作りたいキャラクターの人間性を推し量ってみよう。





 それでは、久しぶりに心理テスト第二弾をやってみよう。

 今回は、営業マンの研修などでよく使われる『他己紹介(たこしょうかい)』だ。要するに、他のキャラから主人公の紹介をしてもらうことになる。


 条件もいくつか付けよう。

 対象は『ヒロイン(または主人公と最も親密な人物)→主人公』に限定。

 作中でその人物が知っている限りの情報しか言えない(作中のヒロインが主人公の年齢を知らなければ、ここで何歳かは言えないということ)。

 逆に作中で書かれていなくても、設定上知っている情報を出すのはOK(作中で食事の描写がなくとも、好きな食べ物は以前から知っている場合など)。

 無理に書こうとせず、本心からの言葉のみにすること。言葉の表現や文体を気にする必要はなく、むしろ勢いで書いてもらう方が望ましい。

 そして最後に……5分以内で書くこと。途中で終わろうが一切何も書けなかろうが、5分経過時点での記述をそのまま回答としてほしい。

 以上、飲み会の席であいさつ代わりに紹介するくらいの気軽さで大丈夫だ。


 では、今回も例を出そう。

 拙作“AL:Clear”より、ヒロインのクロエ=ステラクラインより主人公の日野森飛鳥(ひのもりあすか)(こんな名前ですが男です)を紹介してもらおう。





 お名前は日野森飛鳥さん。白鳳(はくおう)学園の2年生、16歳です。

 1年ほど前に初めてお会いして以来、日本の生活に不慣れな私をいつも気遣ってくださいました。本当にいつも感謝しております。

 普段の飛鳥さんは、その……世話焼きというか、お母さん気質(きしつ)と言いましょうか。みんなと食事している時にも、ハンカチで周りの子の口元をぬぐってあげたり、制服のボタンが取れてるからって普段から携帯されているお裁縫セットでささっと直されたり、いつも鞄の中にスーパーの特売チラシ入れてらしたり。

 それでクラスメートの方々から何て呼ばれているかご存知ですか! 「みんなのお母さん」ですよ! 男子高校生がベテラン主婦みたいなことばかりやってるからこんなことになるんです!!

 ……失礼。少々暴走してしまいました。

 警備組織の隊長という立場に立たれていることもあって、私より年下とは思えないくらいに、とても責任感が強くて頼りがいのある方です。個人的には、もっと私を頼ってほしいのですけれど。

 でも、恋愛絡みになったら途端にあわあわしちゃうところがあって、かわいいなって思います。

 照れ屋さんなところとか、ちょっとだけスケベなところもありますけれど……不器用で、真っ直ぐな、素敵な殿方です。





 ……自分で書いていて割と恥ずかしい部分もあった。

 だが、これでもまだくっ付いていないのだ。完全に恋愛状態にあるヒロインなら、この比ではないくらい色んな感情が渦巻いていることだろう。

  

 さて、この他己紹介で判断したかったのは、ヒロインの主人公に対する『評価』『理解度』『距離感』の3つである。


 『評価』はそのままの意味だ。

 好きか、嫌いか。恋人になりたいのか、友人でありたいのかなど。


 『理解度』は『ライバル』での考察でも少し取り上げた箇所となる。

 相手の考えをどれほど理解できているのか。また、理解する努力をしているのか。


 『距離感』とは、物理的なものではなく、いわば心の距離を指す。

 どれほど相手の心に近付こうとしているのか。常に隣にありたいのか、それとも遠くから見守るポジションになるのか。


 クロエの場合、『評価』は言わずもがな。

 『理解度』については、これは作者自身でしか判断ができない。評価対象である主人公の実際の心理と、ヒロインが述べた主人公への『理解度』がどれほど合致しているのか、作者それぞれが自己診断してほしい。

 なお、クロエの『理解度』は70点くらい。飛鳥が人に頼ろうとしない理由を理解できていないからだ。

 『距離感』については、表面上は極めて近くにありたいと考えているが、まだ遠慮が残っている。「個人的には、もっと私を頼ってほしいのですけれど」という部分で、少し一線を引いているのだ。作中で同じセリフを伝えているのだが、実際はほぼ諦めているという一幕がある。


 この評価を主人公である飛鳥視点で逆説的に捉えると、飛鳥は「誰からも好かれようとする根っからの善人気質だが、心の奥底にまで踏み込まれることには抵抗を持っている」という結構面倒くさい奴ということになる。





 では、この心理テストに何の意味があったのか?

 これはヒロインからの評価を通して主人公への接し方を見直し、そこから主人公の見せ方(、、、)を探るものなのだ。


 例えばヒロインが「怖くて近寄りがたい。何を考えているのか分からない」という他己紹介をしたにも関わらず、本編では「あなたが大好きです」と叫びながらラブラブ光線を発していたらおかしいわけだ。「お金があって、将来性もある」など、何かしらの打算を含んでいれば納得もできようが。


 また、ここでのセリフが長ければ長いほど、ヒロインは主人公のことをよく見ており、理解しようと努力していることになる。おそらく、ヤンデレ系ヒロインなら恐ろしく長い文章になると思われるが、それは理解しようとする努力が(その理解が正しいかどうかはさておき)群を抜いて高いから、ということだ。

 逆に、セリフが短いにも関わらず的確に主人公の特性を見抜いているのであれば、ほんのわずかな交流の間に高い『理解度』を得ていることになる。以前に挙げた『ライバル』だとこうなりやすい。


 そして、何も言えなかったりほとんど内容がない記述になった場合、これは主人公への『理解度』が(いちじる)しく低いという証明になる。

 この場合、ヒロインが理解する努力をしていないか、あるいは、そもそも主人公が周囲へ自分を理解させようとする意思を持っていない可能性が高い。

 時間制限を設けたのもこの点を探るためだ。

 考えてすぐに出ないようであれば、それだけ主人公に対する理解に乏しいという判断となる。


 と言っても、短いからダメというわけではない。

 別に「理屈じゃない。好きだ! 以上」なんて一言でもいいのだ。

 これはこれで、理解する努力など必要ないほどに、完全に主人公を好きになっているということになる。ある意味一番強烈な好意の表れなのかもしれない。

 この場合は、恋愛感情の一方通行――片思いという推論も立つ。

 ヒロイン側は主人公を好きになっているが、当の主人公側は好かれる努力、理解される努力を一切していない。もしかすると、「私の愛を受け取ってー!」「かんべんしてくれー!?」なんて古典的なラブコメの関係に近いのかもしれない。

 『テンプレ』では意外と多そうな評価に思えるが、この場合の主人公サイドはヒロインに好かれたいという意識をしていない。そのため、ハーレムものにおける好色な男性には当てはまらないのだ。少なくともすぐさまベッドインを要求するような主人公ではないだろう。

 ヒロインが『理解度』を放棄している状態なので、実際の主人公がどうなのかは不明だが……自己主張が少ない、恋愛関係には臆病な心理が見えそうである。

 

 



 原則、人は他人の目を気にしながら生活をしている。

 自分の行動や言動が、他人にどのような印象を与えるのかを意識しながら生きているのだ。

 「俺は誰の目も気にしない」という考えの人間こそ意外と人の目を気にしており、「近寄りがたい、理解できない」という評価を他者に求めていることになる。

 つまるところ、ヒロインが主人公に対し「~~だと思います」という評価をするように、主人公はある程度の印象操作をしようとしているわけだ。

 この印象操作が効果を為していない場合――例えば、主人公がヒロインの目を気にしてすごく身だしなみに気を遣っていたとしても、ヒロインの他己紹介でその部分に触れられることがなければ、印象操作は不発ということとなる。これはこれで、主人公の自意識過剰さが見えるので面白い。


 つまり、ヒロインに好かれる主人公を作りたいなら「○○で××なところが好き」と、どのような『好き』の評価を持たれたいかを設定し、そう見られるように意識している人格を作ればいいのだ。

 「いつも無口で何を考えているのか分からないけど、優しいところもあるから好き」という評価を持たれたいのであれば、普段はクールで口数が少なく、でもさりげない部分でちょっとした優しさを見せるような行動や言動をするような主人公を作ればいい。

 大まかではあるが、ここから人格形成の方向が見えてくることだろう。




 

 おそらく『テンプレ』で多いのが、主人公が「俺は誰の目も気にしない」なのに対し、ヒロインが「理屈じゃない。好きだ! 以上」という評価かと思われる。

 成り立たない……というわけではない。

 私はそこまで女性心理に深く突っ込めるわけではないが、一切のアピールをしない男性に対し理解を必要とせず惚れるという心理を、俗に『一目惚(ひとめぼ)れ』と言うのかと思われる。


 が、こう言ってしまっては何なのだが……キツくないか?


 むしろ魅了(テンプテーション)の魔法でも使っている方がよっぽど理が通る。一目惚れは一種の魔法だよね、とか上手いこと言いたいわけではなくてだ。

 2人の関係が一夜限りのものとかだったら全然結構なことなのだが、継続的な付き合いをしていく間柄にとって、相互理解とは当然のように行われる。「好きな人のことをもっと知りたい」という心理とてあるはずだし、『信頼』と『理解度』は基本的に比例する。

 相手のことを何も知らないままでも、盲目的(もうもくてき)に相手への好意や信頼が持続するというのは、心理的には病気だ(、、、)。重ねて言うが、恋の病とか上手いこと言いたいわけではない。いや、ある意味その通りなんだけども。


 あの人のことはよく知らないけど信頼できる、理解できる――この心理が通用するのは、恋に恋する夢見がちな乙女くらいではなかろうか。キツめな言い方をすれば、現実を見ていない(、、、、、、、、)

 ヒロインをこういった夢見る乙女に設定すると、はっきり言って主人公側の設定なんぞどーでもいい。だって理由もなく惚れられるのだ、主人公がどんな人格だろうと何もしなくても向こうから近寄ってきてくれる。


 これがかの有名な、簡単に落とせるヒロイン――通称『チョロイン』である。


 そして、この『チョロイン』を出会うたび自分の物にしていく主人公――ただの腐れ外道だと思うのだがどうだろうか。いや、ある意味包容力があるとも言えるのか?

 はっきり言って、キャラの人格設定において『チョロイン』とは魔物だ。

 先の心理テストにおいて、唯一『測定不能』という判定を下さなければならなくなり、主人公側の見せ方の心理が一切読めなくなるバランスブレイカーなのだ。


 その上、『チョロイン』は主人公の言うことに何の疑いもなく従うため、主人公は常に「ヒロインが認めてくれたから自分のやり方は正しい」という認識をぶつけられることになる。

 ここで踏み止まることができれば問題ないのだが……もしヒロインの言い分を鵜呑みにしてしまうと、主人公すら魔物に変貌する危険性が出てくる。

 周りが常に自分を肯定してくれるのだから、他人から見られる意識を持つ必要がなくなり、何をやっても容認され称賛されるのだから、物語が進めば進むほどに自意識過剰がヒートアップ。

 これで『チート』入りの『主人公最強』ならもう完璧だ。

 主人公の心理は「常に俺は正しい」「俺のやることに間違いはない」という超絶自己中が押し通され、他人の心理など完全無視した恐怖の帝王が爆誕する。

この次元に到達すれば、もはやヒロインが傾国(けいこく)の美女にしか見えなくなる。古代中国、(ちゅう)王様に取り入った妲己(だっき)も真っ青だ。


 存外笑い話ではないぞ、作者さん。

 『テンプレ』小説には意外と多いんだよ、帝王と『チョロイン』が!!


 これで人間ドラマなり成長なり感動なりの要素を入れてみろ、主人公とヒロインの間だけで完結するよく分からんドラマが始まって、他のキャラや読者を全員置き去りという悪夢が顕現することになる!!

 『チョロイン』の存在を否定まではしないが、おそらく全人類の中で最も心理描写が難しい対象である。人を好きになる、理解しようとする判断定義が無いに等しいので、相対的に主人公の有り方に自由度がありすぎる(、、、、、、、、、)のが問題になるのだ。

 「人を好きになるのに理由などいらない」なんて素敵な言葉もあるが、それだけで物語が成り立つほど小説は甘くない。「人を好きになるのに理由などいらない」と言うには、ヒロインにそう言わせるだけの理由があるのだから(、、、、、、、、、)





 コミュニケーション無くして物語とは成り立たない。

 延々と主人公ひとりだけで進み続けるお話とは、単なる「主人公観察日記」である。それはそれで面白いのかもしれないが……物語、という意味ではどうなのだろうとも思う。

 ことコミュニケーションにおいて『ヘイト』を排除しようとするのはなるべく避けて欲しいところだ。「強い! ステキ! 抱いて!」としか言わないヒロインばかりでは、ハーレムを作ったとてつまらないだろう。

 恋の駆け引き、シーソーゲーム。

 昔の人は上手いこと言ったものだ。

 なまじ恋愛なんていう、キャラの精神面をとことんまでに掘り下げる分野を取り入れるのであれば、男女問わず、自分が「どう見られたいか」「どう見られているか」なんてごくごく普通に考える。


 この考察は、「相手の立場になって物事を考える」という割と当たり前の話だ。

だが、世界観なり細かな設定にばかり意識を向けると、ついついないがしろになってしまうものでもある。

 何もしなくても人が寄ってくるなんてことはない。

 自覚があろうとなかろうと、好かれる努力をしなければ好かれることなんてない。

 その評価が正解でなくともいいのだ。

 そもそも人の気持ちなんて杓子定規(しゃくしじょうぎ)で測れるものではないのだから、間違ってなんぼのものである。


 要するに、結論としては「悩むべし」。


 どんな結末であれ、作者なりに納得できるキャラの心の形を作り上げることが肝要だ。

 悩めば悩むほど、自然とキャラの人格設定は濃くなっていき、物語の進めやすさにも繋がるので、時間をかけて損はないはずだ。


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