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その12 ライバルについて

 あなたが作る作品には、主人公に対する『ライバル』はいるだろうか?

 別に殺し殺される戦いにおける『ライバル』である必要はない。

 目標としている人、絶対に負かしてやりたい憎い相手、自分よりテストの成績がよかったクラスメイト。なんでもいい。

 『ライバル』の存在は、そのキャラだけでなく、主人公や周りの人間の精神性に更なる深みを与えてくれる大切な要素だ。


 さて、この『ライバル』。

 『テンプレ』小説においては、びっくりするくらいに該当するキャラが出てこない。

 なぜだ。

 少年漫画においてはそもそもいないと成り立たないレベルで重要視されている『ライバル』が、異世界転生・転移なんていう直球のバトルものにおいてどうして出てこない!!

 『ライバル』のいない戦いなど、ルーのないカレーライスに等しい。

 今回は考察というよりただの主張だ。思うところもあるのでかなり力説させていただく。

 そして作者の皆さま、『ライバル』を書くのだ。

 素晴らしき『ライバル』との関係を、ありとあらゆる『テンプレ』に対するアンチテーゼとして読者の皆さまに叩き込んでくれよう!!





 ではまず、『ライバル』ってそもそも何なのか、という根本的な定義について。

 語源を辿ると、ラテン語で小川という意味らしい。そこから転じて、ひとつしかない水源を巡って争う人々のことを指すようになったのだそうな。

 要約してしまうと『競争相手』だ。

 格闘ものの作品であれば最も分かりやすい。単純に『最強』を目指して競い合う相手となる。“ドラゴンボール”における悟空とベジータの関係が、おそらく日本人には一番有名な『ライバル』なのではなかろうか(別にクリリンでもピッコロでもフリーザ様でも構わないが)。

 『ライバル』とは、基本的に主人公から見ると敵として認識されることになるわけだが、それは決して悪というわけではない。

 好敵手と書いて『ライバル』と読むくらいだ。この関係性はお互いに明確なメリットを与えてくれている。この恩恵は作品の書きやすさ、伝えやすさにも影響しているのだ。





 ではここで、実際に色んな『ライバル』の形を紹介してみよう。


A. 好敵手タイプ

 主人公と同じ目的意識を持ち、基本的には敵対関係にある競争相手。最も王道の『ライバル』と言える。

 実在の人物であれば、武田信玄と上杉謙信、宮本武蔵と佐々木小次郎などの関係性がポピュラーだろう。互いの実力がほぼ互角であることが多く、こういった相手との戦いは総じて色濃く、熱い展開になる。

 主人公を含むキャラクターの精神性を深く掘り下げたい場合には至上の存在。『正義』や『信念』といった主義主張を掲げたい作品には欠かせないだろう。

 敵対関係ではなく、親友や悪友ポジションとして置いても効果的だ。


B. 怨敵タイプ

 殺したいほどに憎い相手、復讐の対象などに当てはまる。

 この場合の『ライバル』は、総じて主人公よりも強者として設定されている。これは魔物なり悪魔なり敵国の兵士なり、ファンタジー作品においてはいくらでも存在しているだろう。怒りや憎しみという負の感情を付与するきっかけとしては最強で、強くなりたいという動機づけとしても抜きん出て強力と言える。

 Aと複合になるキャラクターも存在する。


C. 先達タイプ

 主人公が憧れを持って接する対象。

 これもまた、必然的に主人公よりも強者となる。

 例えば、父親や有名な騎士、ギルドのトップランカー。最初は果てしなく遠い背中だけど、いつか追い付いて認められたい相手が対象だ。

 先生や師匠と呼べるような存在も立派な『ライバル』だ。

 教えを乞うということは、先生に追い付こうと努力するということ。自分が進む道の先に先生がいて、いつか追い付きたい、認められたいと考えることなのだから。なお、先生や師匠に対してそんな感情を少しも抱けないという場合は、単にやる気がないだけである。

 主人公の成長を強く描写したい場合には、『ライバル』としてはこの上なく適任だ。追い付くまでの過程こそが物語の醍醐味(だいごみ)となるので、間違っても序盤であっさりと超えてしまわないように。


D. 後進タイプ

 Cと立場が逆転した場合の対象。

 最初は簡単に勝てる相手だったけれど、どんどん力を付けてきていつか追い付かれるかもしれない。自分も負けずに頑張ろうという努力の意識付けができる。

 なお、『チート』によって規格外に主人公が強く、相手がどうやっても追い付けそうにない場合は『ライバル』に該当しないので注意。追い付かれるかも(、、、、、、、、)、という危機感や対抗意識が生まれる関係でないといけないからだ。


 もしかすると、作者の中には無意識に登場させている方もいらっしゃるかもしれない。

 作者がどのような意図で『ライバル』を登場させたかは本人にしか分からないだろうが、こういったキャラは、必ず物語の中で重要な役回りを見せてくれている。



 


 では、『ライバル』がいることによるメリットを紹介しよう。


 まずひとつは、「負ける悔しさ」と「勝つ喜び」を教えてくれること。

 そんなもの言われるまでもなく分かるだろう――とお考えの方もいらっしゃるだろうが、とんでもない。

 勝つにも負けるにも、同じ土俵で競い合う相手がいないと絶対に味わえない経験だ。

 だがこの経験は、『チート』を使った時点で9割方放棄されてしまう。

 最初から強い。神から貰った才能がある。

 他の誰もが持っていないものを最初から持っているのだから、周りの人間と同じ土俵に立つことを主人公が(かたく)なに拒んでしまっているのだ。まあ、俺tueeeというのはそういうものなのだろうけども。

 確かに、圧倒的な力で並みいる敵を薙ぎ払っていくのは、爽快感があって楽しい(、、、)だろう。


 だが――嬉しい(、、、)、とは思えないはずだ。


 『テンプレ』小説の大半は、「負ける悔しさ」という『ヘイト』を恐れるあまり、「勝つ喜び」という最高の財産を自ら手放しているようにも見える。もったいない話だ。





 ふたつ目は、『成長』の動機づけになるという点。

 競争というものには、追い付き、追い抜かれ、追い越しの繰り返しでお互いを高めていく『切磋琢磨(せっさたくま)』の概念が内包されている。

 シンプルに言えば、「あいつに勝ちたい、だから強くなる」という、主人公が前に進むための理由づけとして最適なのだ。

 相手は別に人でなくたっていいのだ。

 「子供のころ、ドラゴンに家族を殺された。だから強くなってあいつを倒す」という動きであれば、主人公のライバルはドラゴンになる。

 動機は何であれ、殺し合いというのは武力における競争だ。よって、種族が異なろうが意思疎通ができなかろうが、剣を持って戦うのであれば、立ち向かう敵は等しく生存競争における『ライバル』といっても過言ではない。





 みっつ目は、主人公を客観的に評価してくれる点。

 『ライバル』ほど、主人公のことをよく理解してくれる人物はいない。下手なヒロインよりよっぽど的確に主人公を評価してくれる。

 「お前は弱い」「お前は間違っている」、偽らざる本音をビシバシと主人公にぶつけてくれるのも『ライバル』ならでは。

 互いのパワーバランスによって評価の傾向が変わったりもするから面白い。

 『ライバル』が主人公よりずっと強い場合であれば、基本的には「力はある、だがスピードが足りない」といった講義や説教じみた内容に。

 逆に主人公の方が強い場合だったら「手加減なんてするんじゃない」「俺を舐めるな」といった、主人公の態度や行動に対する指摘に。

 実力が伯仲(はくちゅう)している場合は、「俺が勝つ!」「お前にだけは負けられない!」という自身の感情のぶつけ合いと化す。

 





 よっつ目。

 これが一番重要なのだが、『対等な立場』の相手ができること。

 先程の客観的な立場をポジティブに解釈するのであれば、『ライバル』とはよき理解者だ。

 『ライバル』の敵意が好意に反転すると、宿敵と書いて「とも」と呼ぶ存在にバージョンアップしてくれる。

 実はこの『理解者』。いるといないとでは大違いだ。

 「あいつのことは、俺が一番よく分かっている」、この台詞は『ライバル』にしか吐くことが許されない金言だ。ちなみに、「彼のことは、私が一番信じています」はヒロインにしか吐けない金言である。

 そしてこの発言は、主人公に対する評価を一気に跳ね上げる効果も持ち合わせている。

 作中の登場人物に、主人公という人間の奥の奥まで(、、、、、)理解し尽くした上で、彼を評価する発言というものは、読者に「こいつにここまで言わせるなんて、主人公ってすごい!」という感想を持たせるまでに至るのだ。

 この『ライバル』が強ければ強いほど、主人公に対する理解が深いほど、主人公への評価も比例して高くなっていく。

 互いを認め合うというのは、『ライバル』関係におけるひとつの到達点だ。

 主人公に、気兼ねせず本音で付き合える友ができるという利点もあり、物語としてもキャラクターとしても『ライバル』は最大級の輝きを見せてくれる。





 ちなみに、『ライバル』を入れることによるデメリットはひとつだけだ。

 『主人公最強』ではなくなる。以上。

 主人公に同じ土俵で対抗し得る存在が『ライバル』なわけだから、自然と主人公の絶対強者としての地位は消滅することになる。

 本当に、デメリットとはこれくらいなのだ。


 それでも、『テンプレ』には徹底されていると思えるほどに『ライバル』が出ない。出たとしても、すぐ主人公に負ける噛ませ犬で終わってしまうことが大半だ。

 『テンプレ』の世界観と『ライバル』の存在は、意外と噛み合わせは悪くないのだ。

 元より「力こそ正義」な異世界ファンタジー。誰よりも強さを追い求める人間はごまんといる。

 主人公に『チート』を付与したところで、ギルドのトップランカーでも魔法学園の理事長でも魔王国の将軍でも流浪の剣聖でも伝説の幻獣でも、世の中に『ライバル』になれそうな強者などいくらでも転がっているぞ!!

 でも、出てこない。


 仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。

 これまでの考察から考えるに、『テンプレ』の方向性は『安心』『安全』『ほのぼの』で手軽に読みやすいものであり、キャラ同士のぶつかり合いや、汗水垂らして必死に努力するという展開はあまり好まれていない。

 『ライバル』というよりは、競争というカテゴリに主人公を入れたがらない。

 問題を認識、対策、解決までの流れをすべて主人公ひとりで完結させているケースが過半数なのだ。


 こう言ってしまっては何なのだが、主人公は寂しくないのだろうか。

 本音をぶつけられる人、悩みを打ち明けられる人、同じ目線で喜びや悲しみを共有してくれる人。『テンプレ』作品の中に、主人公にとってのこういう存在は果たしているだろうか?

 言っておくが、これらの役回りは基本的にヒロインでは無理だ(、、、、、、、、、)

 ここで恋愛論をつらつら語るつもりはないが、ヒロインが主人公に向ける感情はあくまで『信頼』であって、『共感』ではないことが大半だ。

 いっそヒロインを『ライバル』化させるのもアリだろう。『なろう』発ではないバトル系ライトノベルでは、結構この設定は多かったりする。……というより、この手の書籍化作品はとんでもなく多いので、これはこれで『テンプレ』なのかもしないが。


 あなたが知る『テンプレ』作品を今一度読み返して確認してもらってもいい。

主人公にとって『対等な立場』で、かつ主人公の考えや行動に対して、同意であれ否定であれ『共感』してくれる人物がいるのかどうか。

 味方にならず、最後まで敵のままいがみあって接していってもいいのだ。

 『ライバル』関係のスタートとは、対抗心。

 人にとって最も身近な『目標』であり、物語の方向性を定めるにあたっても、「~~をしたい」「~~になりたい」という動機づけを持たせる存在となり得るため、主人公の人格にも強烈な影響を与えてくれる。


 さあ、『テンプレ』小説の作者様たちよ。お分かりいただけただろうか。

不用意にヒロインという名のハーレム要員を量産する前に、もっと登場させなければならないキャラがいるでしょうが!!


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