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その11 中二病から考えるカッコよさについて

 今回は、作者の皆さまの心を抉るような発言がいくつか出てくることになるだろう。

 というか、まず私自身が傷付く覚悟を持って今回の考察に挑まなければならない。

 さて、直球勝負だ。

 本考察をお読みいただいているすべての作者様に問おう。


 ――あなたは、中二病ですか?


 はっきり言って、私は今「考えたくねぇなあ、これ」と思いながらこの文章を書いている。

 でも、ライトノベルというジャンルに挑んでいる以上、避けては通れぬ命題なのだ。





 中二病(厨二病とも書くが、意味は同じらしい)とはどういうものか……そんなもん言われるまでもなく皆さまご存じだろう。

 だが、一応調べてみた。

 読んで字の如く、中学二年生ごろの思春期特有の思考や言動のことを指す。主に自己顕示欲なり承認欲求――つまり、「オレってカッコいいだろ」「オレは他の奴とは違う(特別だ)」「オレは誰にも理解されない」といった考え方。

 ものの見事に文章の頭が「オレが~」という記載になっているように、総括してしまえば『自己中心的な考え方』と定義してしまってよいかと思う。


 実はこれまでの考察において、(ほとんど偶然なのだが)この中二病とまったく同じ意味の言葉が既に登場していた。その8の総括部分、『テンプレ』の対極である『オリジナリティ』を突き詰めていった結果完成するもの――『理解不能』である。

 あまり言いたくはないが、『なろう』作品の中には、この『オリジナリティ』をこじらせすぎて、中二病という名の『理解不能』の境地に達した作品はいくらでもある。自作品はそうではないと祈りたい。

 

 『オリジナリティ』を、ものっすごく嫌な言葉で身も蓋もなく定義するのであれば『妄想』である。中二病とて、よく「変な妄想をこじらせている」と揶揄されるものであるし、この定義は間違ってはいないと思われる。

 つまり、小説において中二病を回避するのは非常に簡単なこと。

 事実(リアル)を書けばいいのだ。

 妄想という架空の設定(フィクション)を徹底的に排除し、一から十まで現実世界における実際にあった事実(ノンフィクション)を書けば一挙解決である。これなら誰にも中二病と呼ばれる心配はない。

 ……ただこれは、創作という概念そのものの否定になってしまうので、ノンフィクションでありながら現実的な考えではないだろう。上手いこと言ったとは思っていない。

 




 そもそも、別に中二病自体は悪いことではないのだ。

 これは自分の中にある『カッコいい』と思うものを形にして表現した結果である。多くの人が足を踏み入れる『創作』の第一歩のようなものだろうし、それはそれで面白いという感想があるのも確か。

 だが、作家としての中二病とは、なかなかどうして(ごう)が深いものなのだ。

 人によっては『黒歴史』として忘れてしまいたいであろう行いが、完成した状態で(、、、、、、、)、かつ不特定多数の人間にさらけ出されるのだから。

 うん。そういう意味では、本考察は作家になろうとする前に読んでほしいところだ。


 まず、小説における様々な中二病の形を考えてみた。

 なお、これは作品の良し悪しを問うのではない。該当するからといって、まだ(、、)悲観しなくても大丈夫だ。


A. 設定厨タイプ

 いわゆる「形から入る」タイプ。

 例えば、邪神の生まれ変わりだの運命だの伝説の魔剣だの、大仰な設定をこれでもかと詰め込んでいるが、その設定に対する『裏付け』に乏しい作品のこと。

 「どうして邪神が主人公に生まれ変わったのか」など、設定に対する根拠を問われて即答できない方はこのタイプの疑いがある。

 あるいは、武器や能力にやたら物々しい名前を付けてしまう方も要注意だ。

 私の偏見も大いに入っているが、異世界転移して防具を揃えた際、黒いコートに黒いパンツ、全身真っ黒コーディネートを理由もなく(、、、、、)チョイスして、ヒロインに「わぁ、素敵です!」と言わせているような作品もたぶんコレ。


B. 最強厨タイプ

 読んで字の如く、主人公が一番強くてカッコよくないと気が済まないタイプ。『テンプレ』小説において最も多いと思われる。

 主人公ひとりで抜きんでて強く、他のキャラ(敵味方問わず)全員を置いてきぼりにするほどの力の差がある場合は間違いなくコレ。

 神だのドラゴンだの、その世界における上位階級の存在が序盤にポンポン出てくる展開もおそらくコレ。


C. なんちゃって哲学タイプ

 キャラの台詞がなんかちょっといいこと言っているように見えるけど、よくよく読んでみれば中身のない薄っぺらい内容になっているタイプ。

 例えば、初めて戦場に出る新米兵士が怖がって逃げようとしている時に「逃げんな!」とだけ言えば済むところを「お前の剣で死神という名の死の運命をたたっ斬ってやるんだ!」みたいな発言をしている場合がコレ。

 感想欄で「キャラの台詞が回りくどい」というお声が出ればもう確定です。実は私も該当していそうで危ない。



 Aに関しては、やり過ぎなければ基本的に問題ない。

 注意点としては、やたら「神々の力が~」とか「世界を破滅させる~」とか、スケールが大きすぎる設定を多用しないことだ。主人公の設定にもよるが、物語において『ひとりの人間』ができる限界値というものを見定めてから、設定を考えることをオススメしたい。

 あとはネーミングについてもそうだ。

 『オリジナリティ』の考察でいくらか触れた点でもあるが、その設定が分相応のものである方がいい。例えば、その辺の武器屋に売っていた鉄の剣に『神殺しの剣』と名付けるのが分不相応(、、、、)の悪例である。

 「ゲームの世界」という設定で、予めあらゆる物に最初から名前が付いているならともかく、主人公自身が名前を付ける場合はもう何の言い訳もできないので注意したい。



 Bについては、典型的な『なろうテンプレ』に見られる光景だ。

 『なろう』の中ではなまじ評価を受けている分、あまり正面きってデメリットを提示しづらいところだが……これは「主人公を客観視する意識」を付けることをオススメしたい。

 もし、この主人公が現実に自分の身の回りにいて、あなたは彼に対してどんな印象を持つのか――小説の世界は創作なんだからと、ついないがしろにされがちな作業だが、この視点を持つことは「読者の視点」を意識することと同義なので、結構重要なのである。

 ヒロインに惚れられる、みんなから好かれる主人公。ではあなたはその主人公と友達・恋人になれますか? ちゃんと自分に問いかけてみよう。

 自分が無理でも作品内のキャラなら大丈夫、という判断でも結構だが、描写が難しいのは間違いない。だって、主人公の魅力が自分で分からない(、、、、、、、、)のだから。

 世界最強、全宇宙の頂点、大いに結構だ。

 だが、すべての他者を置き去りにした者を待ち受けるのは、往々にして『支配』か『孤独』の結末にしかなり得ない。

 この次元にまで到達して、みんなが笑顔で締め括れるような結末に持っていくには凄まじい説得力が要求される。序文に記したとおり滅茶苦茶難しい(、、、、、、、)ので、書き続けるなら覚悟を決めよう。



 Cについては、色んな小説を読んだり書いたりして、活字慣れした作者が陥りやすい。

 言葉の引き出し――ボキャブラリーが多いと、物語に深みを与えようとしてついつい小難しい言い回しを多用してしまうのだ。要するに、くどい(、、、)と解釈される。

 「素早く斬った」で済むところを「疾風迅雷(しっぷうじんらい)乾坤一擲(けんこんいってき)の斬撃が敵を一刀両断した」と書くようなものだ。長い長い激闘のラストシーンに使うのであれば、場の重さを表現する要素としてアリかもしれないが、これでスライムを軽く倒すシーンだったら失笑ものである。

 シンプルに、簡潔に物事を書くのもひとつの技術だ。

 シーンに応じて緩急を使い分けるイメージで運用できれば言うこと無しだろう。



 


 だが、この中二病設定をあえて前面に押し出すことでひとつの作品としている場合もある。

 俗に言う『熱血もの』だ。

 様式美、お約束、青春、馬鹿(バカ)、こういった要素で固められた作品群のことを指し、拙作“AL:Clear”も、一応はこのカテゴリに属している(つもりで書いている)。

 これは一種の開き直りだ。


 嫌いな奴と夕日をバックに殴り合ったら友達(ダチ)になる。

 ピンチになったら火事場の馬鹿力(秘められた力でも可)で大逆転。

 一対一で勝たなきゃ意味がない。

 努力・友情・勝利。

 トドメをさす時は必ず大技で。

 絶対に譲れないものがある。

 

 ベタな設定、と言ってしまえば分かりやすいだろうか。

 意外や意外、最近の『テンプレ』小説にはこの要素が驚くほど少ない。

 『なろう』で『熱血』をキーワードに検索してみたのだが、約360,000作品ある中でヒットしたのはわずか328作品(2015年12月16日時点。拙作含む)。まさかの1000分の1以下だった。タグに入れていないだけで、中身は熱血という作品もたくさんあるだろうが……それにしたって少ない。

 

 実際、『熱血もの』は意外と書きやすいのだ。

 道理を無理で押し通し、理屈を意地で覆す。

 細々した設定や、理に合わない話の流れでも「俺が気に入らないからこうする」という暴論が(内容によるが)成立する、おそらく唯一無二のジャンルでもある。

 要するに、敵を倒す理由として「テメェが俺を怒らせたからだ」と大真面目な顔をしながら言い切れるのだ。

 『異世界転移』『チート』との相性も抜群にいい。

 力を振るうことが正当化されやすいファンタジー世界で、かつ魔物なり魔王なり単純明快な敵がいる環境なのだ。まさしくヒーローが活躍するためにお膳立てされた舞台であり、正義なり信念というものが強敵と(、、、)戦い続けるだけで表現できるのだ。

 

 


 

 だが、昨今の小説の主人公は、良くも悪くも冷静かつ受け身(、、、、、、、)だ。「~~をしたい」「~~になりたい」と、自分の夢や希望を声高に叫ぶ主人公などとんと見かけなくなった。

 生きるためには~~しなければならない。

 この力を使えば~~ができる。

 敵が現れたので~~をして対処する。

 これは、現代におけるキャラクターの『カッコよさ』の方向性が、かつてとは異なってきたからなのかもしれない。

 どんなトラブルが舞い込んできても、冷静かつ的確に、スマートに解決する。

 いつもクールで自分の力を鼻にかけない、完璧なヒーローに対する憧れ――そんな意識が根付いてきているのだろうか。


 昔から、こういったヒーロー像は確かに存在した。

 “007”のジェームズ・ボンドに代表される『ハードボイルド』。そのアクションはまさに、上に挙げたようなクールな主人公を体現している。

 だがその領域に至るまでには、当然ながら様々な苦労や経験をしてきているわけで、仮に普通の高校生がいきなりそんなキャラになったところで、中身がない(、、、、、)と一蹴されてしまうわけだ。

 この辺りのバランスは、特撮ものだが“仮面ライダーダブル”の物語が特に秀逸だった。

 まさしく『ハードボイルド』な探偵を師匠に持つ見習い探偵が主人公だが、やることなすこと、どこか詰めが足りないところから、半熟――『ハーフボイルド』なんて呼ばれ、文字通り未熟さを表現していたのだ(なお、『ハードボイルド』とは完熟卵のこと)。

 『ハードボイルド』を気取って背伸びをする姿は確かに滑稽(こっけい)かもしれなかったが、それでも事件を乗り越えて少しずつ成長していく姿は、青臭いと思われながらも視聴者からは大きな人気があったのだ。





 やれ中二病だと揶揄(やゆ)される作品というのは、この『カッコよさ』を先に求める(、、、、、、)意識が作り出したと言ってもいい。

 こんなキャラはカッコいい。

 こんな設定、こんなストーリーがカッコいい。

 作品を書く上で、作者が主人公を引き立てたい気持ちは間違いなく本物だろうし、その行いを否定するつもりなんてさらさらない。

 だが、『カッコよさ』とは先に作り出せるものではなく、後からついてくる(、、、、、、、、)ものだ。

 今まであなたが出会ってきた人物(現実、創作問わず)の中で、あなたが心底『カッコいい』と思った人物を思い浮かべてもらうといい。

 その人物と自分が作り出した『カッコいい』キャラは、本当にその『カッコよさ』は合致しているのか? 今一度自分自身に問いかけてみてほしいのだ。





 ここからは完全に私個人の偏った意見だが、『ハードボイルド』とは歳をくったおっさんだけに許された特権だと思う。

 おっさんにはおっさんの、若者には若者の、それぞれでしか出せない『カッコよさ』がある。

 少なくとも、力が及ばない事実を噛み締めながら、それでも進み続ける『成長』の物語は、主役が若者だからこそ輝くものだろう。いい歳こいたおっさんが同じことをやってもなかなか評価はされないものだ。

 『ハードボイルド』だって同じこと。酸いも甘いも乗り越えたおっさんだからこそ、余裕のある振るまいというものがさまになる(、、、、)し、クールな言動・行動にも含蓄(がんちく)が出る。

 作者も小説のキャラにも、変に背伸びなんてさせてくれるな、ということだ。


 最後に。

 拙作の中で登場した、とあるキャラの台詞でこの考察を締め括ろう。これは、私が祖母に言われた言葉を元にしている。


「肩肘張っててもいい結果なんて出ないよ。自然体の自分で挑むからこそ意味があるんじゃないのかな?」


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