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婚約破棄モノ

手に入れる為に

作者:

PC内を整理していた時に出てきた書きかけのお話。

さらーっと読んでください。

設定不十分な部分が多いので……


「お父様」

ざわめく会場に鈴のような声が響く。

ざわめいていた会場は一瞬にして静まった。


「フィル?」

第一王女の登場に国王は眉を顰めた。

「侯爵令息の私との婚約破棄宣言をお聞き届けください」

国王の前で深々と頭を下げる第一王女・フィリール姫に誰もが驚愕の表情を浮かべた。

「……」

「お父様、私とダンディル侯爵家のレオンハルト様との婚約を結ぶ時に私が付けた条件をお忘れですか?」

「…………」

「『コーネイン王家第一王女フィリール・ディア・コーネインとダンディル侯爵家嫡男レオンハルト・ルイ・ダンディルの婚約を結ぶにあたり、以下の条件を加える。

どちらかに婚約を結ぶ相手以外に愛する者が出来た時、速やかに婚約解消の手続きを神殿に申し出る事』

と、婚約を結ぶ時に私が提示したことを覚えておりますわよね?お父様」

にっこりとほほ笑みながらも『忘れたとは言わせない』という雰囲気を出す第一王女に誰もが固唾をのんで国王の返答を待っていた。

「……もちろん、覚えている。あの時は『王族の婚姻契約に最初から破棄の条件を付けるなど前代未聞の事だ』と神殿側から強く抗議されたからな」

「それでも、お父様も神官長様もその条件を最後は認めてくださいました」

「普段、我儘も泣き言も言わずに王族としての務めを幼い身でやり遂げていたお前の唯一の我儘だったからな。それに、フィルとダンディルの息子は幼い頃から共に育ち仲が良かったから破棄するようなことはないだろうと思っていた。婚約を結ぶ前からダンディルの息子は『フィルはぼくのおよめさん』などとほざいて可愛いフィルの頬にキスしまくっていたからな……唇はなんとか死守したけどな!」

その時の事を思い出しているのか国王の表情が……(自主規制)

「ダンディル侯爵も忘れてはおりませんわよね?」

国王のすぐ側に控えていたダンディル侯爵に視線を向ける第一王女に侯爵は小さく頷く。

「もちろんでございます、フィリール様。私ども一族もフィリール様の降嫁を首を長くしてお待ちしておりましたので……まさか、息子がこのような場でこのような事を宣言するとは夢にも思いませんでした」

「しかしご子息は私では不満の御様子。二の姫のほうがご自分に相応しいと常々周囲の者に漏らしていたそうですね。私の耳にもその話は入ってきました。私の元にも届くということは侯爵家にもその話は伝わっていたはず、なぜその時に、すぐに私との婚約を解消させ、二の姫との婚約をお求めにならなかったのですか?同じ王家の姫なのだからすんなり事は進んだはずですのに……」

第一王女の冷たい氷の様な声と瞳に侯爵は答えることが出来なかった。


しばしの静寂の後、

「お前はそれでいいのか?」

今迄、公の場では決して見せることはなかった第一王女への労わりを感じさせる優しい表情と声を出す国王。

先ほどの表情とは180度違う。

本当に同一人物なのだろうかというほどに違う表情を浮かべる国王。

「いいとは?現に、私は侯爵令息には婚約者と見なされていなかったのですよ?パーティーの同伴は婚約者または身内と決まっているのに彼が連れているのは二の姫。婚約を交わしている私ではない。それが答えでは?……それに、私は気づいていましたから」

第一王女の言葉にダンディル侯爵令息と第二王女は息をのんだ。

「気づいていた?なにを?」

「ダンディル侯爵令息と二の姫がこうなることを……」

俯きながら告げる第一王女。

「……!?」

驚きを隠せない国王に第一王女は顔を上げ儚げに微笑んだ。

「いつ二人から相談されるかと待っておりましたが、私の知らぬところで話が進んでいたのですね。むしろ私の方から話を進めればよかったのかもしれません」

「つまり、今日この日まで、お前に何の相談も謝罪もなしにダンディルの息子は何食わぬ顔で二の姫と情を交わし、第一王女との婚約破棄と第二王女との婚約宣言したのか!?今日この日に!」

プルプルと握りしめた手を震わせている国王にダンディル侯爵令息と第二王女は顔色を失くし俯いた。

ダンディル侯爵は顔を真っ青にさせ、近くにいる侯爵夫人は今にも倒れそうだ。

「お父様……いえ、国王陛下。私が婚約を結んだ時の条件に従い、速やかに私とダンディル侯爵令息の婚約を破棄し、そして、『真実の愛』を見つけたと宣言された二人の……ダンディル侯爵令息と二の姫の婚約をお認め下さい」

再び頭を下げる第一王女に国王は玉座を降り、第一王女をそっと抱きしめた。

「そなたはどうして……」

微かに震えている国王の声に第一王女は微笑むと

「これが私に課せられた『運命』なのかもしれません。国のために生きる事。これが私に課せられた『運命』であり『使命』だと思います」

「……フィル」

「どうか二の姫とダンディル侯爵令息の婚姻をお認め下さい。私なら大丈夫です。とうの昔に覚悟はしておりましたから」

儚げに微笑む第一王女の言葉に国王は首を横に振った。

「いや、簡単には認められない」

「お父様!」

「それを認めたら……お前は他国に輿入れすることになるんだぞ?」

「当然です。すでにどの国に行っても良いようにその準備も整えてあります」

平然と答える第一王女に国王は顔を歪める。

「お前は婚約破棄に関して、ダンディル侯爵家が……いや、神殿側も知らない条件を付けただろうが!ダンディル侯爵家側からお前との婚約を破棄すると宣言したら、お前は国が決めた国に嫁ぐと。嫁いだら二度とこの国には戻らないと!」

「当たり前ではないですか。私は王女です。国のために生きる『宿命』を背負っているのです。国が決めた相手に嫁ぐのが普通です。王族が……王位継承権を持つ者が恋愛結婚などできるわけないではありませんか!国のため、民のために王族は活かされているのですから!ダンディル侯爵家との婚約だって政略的な意味合いでの婚約だったじゃありませんか!」

「!!」

第一王女の言葉に国王はもちろん、黙って成り行きを見守っていた大臣達も息をのんだ。

「旧王家の流れを汲むダンディル家との結びつきは二の姫が引き受けてくれます。私は王の娘として生まれた時から国の駒です。国の利益のために嫁ぐ覚悟はしているつもりです」

きっぱりと言い切る第一王女に国王や大臣たちは言葉を紡げずにいた。



「フィル姉様の新しい婚約者候補は僕が通う学院の先輩方を推薦しますよ。父上」

静まり返った会場に男性の声が響いた。

「ジル?」

姿を見せたのはこの国の第一王子のジルフィール=ライ=コーネイン。

昨年、成人の儀を迎えた王子は第一王女よりもほんの数センチ背が高い美青年。

第一王女と同じ金色の髪をきれいに整え、軽く後ろに流している。

会場のあちらこちらから令嬢たちの熱い視線が彼に突き刺さっている。

国王の前に立ち、臣下の礼を取る第一王子に国王は顔を上げる様告げる。

「留学先より、一時帰国致しましたことをここにご報告いたします」

帰国の挨拶をする第一王子は現在留学中の身。

本来ならばこの場にいるはずのない人物である。

「ジルフィール、いつ帰ってきたのだ?それよりもお前の留学先の学院の先輩方と言うと…………」

「ガルーダ国第一王子オルレアン=ディ=ガルーダ様、ディアモ国第三王子サディエル=フォン=ディアモ様、ボードリエ国王弟殿下セドリック=サン=ボードリエ様のお三方を推薦いたします。実は今日のフィル姉様の誕生祝いの宴に招待しております」

にっこりと微笑みながら第一王子が上げた名前は周辺の大国の王族の名ばかり。

第一王子の声と共に大衆の中から姿を現した三名は皆、整った顔立ちをしており、周辺の令嬢たちから甘いため息が零れた。


「コーネイン国王陛下にはご機嫌麗しく」

三人を代表してもっとも国土が広く、武力が強いガルーダ国の王子が挨拶をする。

「オルレアン殿、サディエル殿、セドリック殿。すまない。我が国の恥をお見せした」

国王が謝罪すると三人は首を横に振り笑みを浮かべた。

「いえ、むしろこの場に立ち会えたことを喜んでおります」

オルレアン王子の言葉にサディエル王子とセドリック殿下も頷いている。

「ガルーダ国は第一王女フィリール姫のお輿入れを強く望みます」

「ディアモ国も同じく」

「ボードリエ国も同じく」

三国からの公の場での申し入れに国王をはじめ大臣たちは驚愕の表情を隠せていない。

「ガルーダ国は元々第一王女様を望んでおりましたが、すでに国内の侯爵家と婚約を交わしているからと断りの手紙が届き申し入れの取り下げをしようとしたところ、第二王女をという打診が来たのでこの度の宴で第二王女の人となりを見てから返答しようとしていたのですが……やはり第一王女様を強く所望いたします」

「ガルーダ国もですか?ディアモ国も同じです」

「ボードリエ国は第一王女が無理なら次代を……第一王女の子を我が国に……と申告していたはずですが?」

王子たちの言葉に会場がざわめいたのは致し方ないでしょう。

三国とも第一王女が目当てだと公言しているのだから。



「まあフィル姉様の新しい婚約者選定は後日じっくり大臣達を交えて検討して、今日はフィル姉様とダンディル侯爵令息との婚約破棄だけに留めておいてはどうでしょうか。あ、二の姫との婚姻に関しては父上が判断してください。ただし!ダンディル侯爵令息は一度王族との婚約破棄を相手に相談無く宣言しているので二度目の破棄は不可能と言う条件付きでお願いしたいです。フィル姉様には非はない事も明言してくださいよ。長きにわたり、筆頭侯爵家の夫人として侯爵家を切り盛りできるように侯爵や侯爵夫人に師事して寝る間を惜しんで勉強したり、裏切り者たちの行動を必要以上に他国に広がらない様にフォローしていたりしたくらいなんですからね。僕個人の意見としては、側室の子だからと王族の義務を放棄して、ただにこにこと男を侍らしているだけの二の姫が欲しいというんだからくれてやればいいと思いますけどね」

じろりと侯爵令息と第二王女を睨みつける第一王子に、三国の王族からの申し出に呆然としていた国王は我に返り、頷いた。

「せっかくのフィル姉様の生誕祭です。婚約破棄をして、フィル姉様は新しく生まれ変わるんです。これからはご自分の事を考えても良いのではないですか?」

にっこりと第一王女の手を取り微笑む第一王子。

だが、その笑顔に有無を言わさぬ何かがあることに気付いた国王は早々に第一王女とダンディル侯爵令息との婚約破棄と第二王女をダンディル侯爵家へ降嫁させると宣言した。


第一王女の生誕パーティーを妨害したとしてダンディル侯爵令息と第二王女に(とりあえず)一か月の謹慎処分を言い渡すことを忘れなかったのは国王の片腕ともこの国の魔王とも呼ばれている宰相殿だったことを一応報告しておこう。


国王の宣言(宰相によるダンディル侯爵家令息と第二王女の処罰)後、第一王女は賓客扱いとなった三カ国の王族(婚約者候補)を自ら接待した。

第一王女と誰が一番最初にダンスを踊るのかで三人+第一王子が揉めに揉めているその横から国王がその権利をあっさりと奪い、ちょっとしたいざこざもあったが、先ほどの侯爵家との婚約破棄話など遙か彼方に吹き飛ぶほどの話題を三カ国の王族と第一王子がばら撒き、第一王女フィリール・ディア・コーネインの17歳の生誕祭は、民達に盛大な話題を振りまいて幕を下ろしたのだった。



翌日、近隣諸国の平民にまでコーネイン国第一王女フィリール姫のダンディル侯爵家との婚約破棄及びへの周辺大国からの熱烈な縁談申し込みの話題は瞬く間に広がったのだった。



***



「ジル、お帰りさない」

宴の翌日、第一王女は心からの笑みで第一王子の帰国を歓迎した。

「ただいま、姉様」

第一王女の私室に入るなり、ぎゅっと抱きしめる第一王子に第一王女は苦笑しながら軽く抱きしめ返した。

しばし、再会を楽しんでいた第一王子は共に入室し、居心地悪そうに視線を彷徨わせている3人を改めて第一王女に紹介した。


ガルーダ国第一王子オルレアン=ディ=ガルーダ。

ディアモ国第三王子サディエル=フォン=ディアモ。

ボードリエ国王弟殿下セドリック=サン=ボードリエ。

共に第一王女と同じ年の17歳。

第一王女がダンディル侯爵家と婚約を結ぶ10歳の時まで、幾度となく国を行き来しそれなりに親交のある者達。


侍女たちが用意したお茶とお菓子を手に5人は中庭でお茶会を楽しんでいた。

「姉様はあいつが婚約破棄を宣言しなかったどうするつもりだったの?」

ティーカップを持ちながら首を傾げる第一王子に第一王女はふふっと小さく笑う。

「あら、私があの者の行動を把握していないと思って?」

扇を片手に微笑む第一王女に第一王子は肩をすくめた。

「姉様に対抗できるのってレアン達だけだよね」

「俺だってフィーには勝てないぞ」

ティーカップをソーサーに戻しながら苦笑するのはオルレアン。

「僕も無理ですね。フィーは常に先を見据えて行動していますからね」

第一王女御用達の城下町で人気のクッキーを手にお手上げだと両手を上げるサディエル。

「私もフィーには勝てませんね。でも、負けるつもりもないけど」

クスリと笑うのはセドリック。

「それでも姉様と対等に渡り合っているじゃないか!僕なんていっつも姉様の掌で転がされているのに!!」

ぶーっと頬を膨らませる第一王子に第一王女をはじめ4人は笑顔を浮かべる。

「それはそうと……レアン達の国が姉様を欲しがっているって本当?」

「「「本当」」」

即答する三人に第一王子は少し驚いた。

「どうして私を?あなた方なら選り取り見取りじゃなくて?」

扇で口元を隠す第一王女。

だが、扇の裏では口元がつりあがっているのを第一王子は見逃してはいない。

「国というよりも、俺自身がフィーを欲しているんだよ」

「僕たちは初めてフィーに会った時からフィーの虜……下僕なんだ」

「私たちの誰かがフィーの婚約者になるはずだった。だが、邪魔が入った。あいつは重鎮(ふるだぬき)たちが欲している自分に流れる旧王家の血を武器に私たちに挑戦してきた」

「だから、俺達は裏から手をまわし、あいつを退場させる舞台を整えた」

「こうも、あっさりと落ちるとは思わなかったけどね」

「もう少し手ごたえが欲しかったよね。ねえ、フィー」

にこやかに微笑む三人と第一王女に第一王子は確信した。

今回の侯爵令息の婚約破棄騒動は姉と彼ら達に仕組まれていた茶番劇だったということを。



「フィーはずっとこの国から飛び出して世界を見て周りたいって言ってたからね」

「だから僕たちはフィーを手伝っただけ」

「私たちならフィーを国外に連れ出せるからね」

第一王子は小さな笑みを浮かべた。

遠くない未来、姉は三人の手を取ってこの国から飛び出し、二度と祖国に帰ることはないだろう予感を胸に抱きながら……



雁字搦めの鳥籠に囚われ、青空に恋焦がれていた小鳥が仲間と共に大空に飛び立ったのは翌年の春の事であった。



その後、コーネイン国は第一王子ジルフィール=ライ=コーネインが後を継ぎ、世界中を飛び回っている小鳥からの情報を元に諸外国との交流を広げ、数十年後には著しい発展を遂げ、小国ながらも大国と肩を並べる程に成長していったという。



なお、余談であるが、ダンディル侯爵家は二の姫を迎え入れた数年後、没落したという。

『真実の愛』を得たと豪語していたダンディル侯爵家令息と二の姫の間に子は1人も生まれなかった。

ダンディル侯爵家の後継者問題が勃発した最中、二の姫付の侍女の日記が国王に渡された。

『二の姫様はご自分の体形が崩れるのが嫌だと、旦那様に内緒で避妊薬や堕胎薬を飲んでおりました』

これを知った国王はそれはそれは美しい笑みを浮かべていたと側近たちが話していたとかいないとか……



作中、あまり登場人物の名前を出さずにいるのはわざとです。

最初は名前で書いていたのだけどなぜかこっちの方がしっくりきたので(個人的に)ヾ(--;)ぉぃぉぃ


フィリールは三国の王族の内の一人と婚姻します。

誰かは……ご想像にお任せします。

詳しいキャラを描いていないので想像しづらいですが…(^_^;)

三国の内の誰かと婚姻を結んでも4人+弟の関係は崩れることなく続いていくとメモがあった。


ちなみに、これ残っていたメモを見ると長編用に構想していたみたいです。

私の能力では長編には無理なのになぜ・・・と首を傾げながら短編にしてみました。


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