5話 野宿
1人5ガルで宿泊できます。
お金は横にある袋にお入れください。
空いている部屋をお使いくださいませ。
店主
そう書かれた紙が、受付に置いてあった。
店の者はサーカスを観に行ったのだろう。
「ここではお金の単位が"円"じゃなくて、"ガル"なのね」
この世界の常識を1つ知り、腰に巻いた皮のベルトから下げた袋を紐解き、開けた。
そのときアリシェは気付いた。
「あたし、こんなベルトしてたっけ?」
生前の記憶では、あたしは茶色のひらひらしたミニスカートを履いていた。
確か、ベルトを通せるものではなかったはずだ。
それに見たことのない、布製の小さな袋。
この中にお金は入っている、と勝手に思っていたが、何一つ取り出せるものはなかった。
理由は簡単、空だったから。
嫌な予感がしたアリシェは、急いでレンガで敷き詰められられた壁に掛った鏡の前に立った。
そこに映った自分の姿に、愕然とした。
「・・・コスプレ?」
それはコスプレと呼ぶには程遠いものだった。
生前の渚沙と今の姿は似通ってる部分など1つもなかったからだ。
あのときのセミロングの黒髪は、茶髪に染まり、後ろで髪を1つに束ねている。
丸顔はスッと絞られ、言うなればホームベースの形になり、たれ目は少しつりあがっていた。
服装も可愛いと言えるものではなく、黄緑1色に染まった半袖ワンピースに黒の皮製ベルト。
所持品は、もちろんブランドもののカバンではなく、何も入ってない袋1つのみ。
どうやら、死後の容姿はまったく別人になるらしい。
性格は変わっていないが。
「・・・まぁ、いっか」
今日はいろいろなことがありすぎたからか、疲れていた。
無一文のアリシェは、これから一晩過ごせる場所を探さなくてはならない。
悲しみに暮れてる場合ではなかったので、無理やり自分を納得させる。
木製の扉のノブをひねり、宿屋を後にした。
日は沈み、星が散り散りに光り始めた頃、活気にあふれていた街は静まり返っていた。
そして彼女が行きついた先は、トラルベルの噴水広場。
名の通り、円になった広場の中央に噴水があり、それと向かい合うように設置されたベンチに腰を掛ける。
幸いなことに暑くなく、そよ風が吹いて涼しかった。
屋根があるところに泊まれたらよかったのになと思いつつ、今の状況を確認してみた。
あたしは死んで、いつの間にかレグザムという死後の世界にいた。
その間に、姿の見えない誰かと話した。
和人に会いたいなら、宝玉を集めろとのこと。
そして、最果ての地に向かわなければならない。
えーっと、名前はジャムガムだっけ。
グリーンガムだっけ。
違うだろ!と突っ込んでくれる人はいないため、ジャムガムという間違った結論が彼女の脳内にインプットされた。
でもあれは誰の声だったんだろう。
浮かんだ疑問について、1人で討論しようとしたそのとき。
「うっ、・・・・ひっく・・・・」
どこからかすすり泣きが聞こえた。
夜+泣き声=幽霊
という式が浮かんだアリシェは、身体に悪寒を走らせながら立った。
辺りを見渡すと、噴水を挟んだ向こう側に、髪の長い女性がベンチの上でうずくまっていた。
肘掛けに背を預け、膝を抱えていた。
幽霊ではないことに安堵を覚える。
何かあったのかな?
なぜか放っておけないアリシェは、その女性に近づいた。




