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42話 レオンの正体

「……ん」

「アリシェ、起きたか」


目覚めれば、覗き込むフリードと目があった。

反射的に瞑るが、彼がいることを認識するとゆっくりと目を開ける。


「よかった。アリシェ、お疲れ様」


本当に安堵したリーナはフリードと共に胸を撫でおろす。

その隣で横たわったままの長剣ウィンリウスも深いため息をついた。

主、つまりアリシェが死んだら、ウィンリウスは宝玉の力によってあの湖に戻されるのだ。

フリードに背を支えられながら、ゆっくりと起き上がる。


「フリード、生きててよかった!あ、レオンは!?」


顔色は悪いが精いっぱいの笑顔をフリードに向けた後、レオンを心配して左右を見る。

左隣には、頭にタオルを乗せたレオンが眠っていた。


「もう頭痛は大丈夫なの?あ、そういえば……」


何かを思い出したように腰の宝玉袋から小瓶を取り出す。

水を汲んでほしいという願いを叶えられなかった、と言おうとしたが小瓶にはしっかりと水が入っていた。


「リーナ、それを早く狼に飲ませんか」

「わかってる。アリシェ、それくれるかな」


手を差し出すと、アリシェは首を傾げて小瓶を渡した。


「フリード、そんな声してたっけ?」

「あぁ、今のはその剣だ」

「剣ではない、ウィンリウスだ」

「ウィンリウスって言うの?話せるんだ、すごいね!」


握っているウィンリウスを持つと、それは羽毛のように軽かった。

思わず感動している間に、リーナは小瓶に入っている真実の湖の水をレオンに飲ませる。

いつもの明るいアリシェを見つめるフリードは、奥歯をギリッと、強く噛んだ。

いくら明るく振舞っていても、彼女の心情は察せる。

だが、それを和らげることさえできない。

どんな言葉をかけたらいいのか、わからない。


レオンの喉をゴクッと水が通る。

それに安心したリーナは、空になった小瓶を大理石でできた床に置く。

突然、瞳が大きく開かれた。


「レオン!」

「あ、アリシェとフリード……!」


視界に入った2人の姿の隣に目をやると、笑みを浮かべたリーナがいた。

何とも言えない感情が、沸々と湧いてくる。


「リーナ様!ご無事でしたか!」

「レオン、思い出してくれたのね」


全てを思い出したレオンをギュッと抱きしめると、顔をその体に埋めた。

肩を上下に揺らして、泣いている。

アリシェは状況を読めずに、再度首を傾げた。


「我を忘れるな、狼」

「フリード、そんな声だったっけ」


アリシェ同様のことを話すレオンに呆れながらも、変わっていない性格に安心した。


「違う。その剣だ」

「剣士、我はウィンリウスだ。いい加減我が名を覚えんか」

「すっげ!その剣しゃべるんだ!……って、それは宝玉か?」


目を輝かせながらウィンリウスに嵌っている宝玉を見つめる。

これが5つ目の、最後の宝玉だった。


「あぁ。……再会を喜ぶところ悪いが、そろそろ話してくれ」


どうやら確信を得たいらしい。

フリードはレオンとリーナを交互に見やる。

顔を上げ、涙を手で拭うと呼吸を整えるリーナ。

一応レオンに確認を取ろうとするが、その前にリーナと視線を合わせてコクリと頷いた。

話していいという了解の合図だ。

アリシェも黙って、その話に耳を傾ける。


「私は、神王イルノスの妃。レオンは、私の側近兼宝玉の守護者として仕えている人間だった」

「レオンって、人間だったの?」


このことにはアリシェだけでなくフリードも驚いた。

同時に、レオンが狼になった経緯が気になった。

リーナが肯定すると、話を続けた。


「ある日イルノスが宝玉を使って人間界も治めることが出来れば、皆がより幸せになれるのではないかと考えた。レグザムにいる人はアリシェ、あなたみたいに愛する人を残して死んで来た人も多くいたから。イルノスは、その人たちが生前の世界と行き来できるようになれば、幸せになれると考えたの」


アリシェはその話に、深く頷いた。

確かに、死後もいつでも会いに行けて触れ合うこともできれば、それはとても嬉しい。

今はその相手が、いないのだけれど。


「俺もリーナ様もその考えに賛成だった。けれど、人間界の神様はそれを許さなかった。秩序が乱れるって。そして、それがどんな結果を起こすのかも教えてくれたんだぞ」

「人間界とレグザムに住む者が滅する、ということだよね」

「えぇ、そうよ。だから私は諦めた。それは絶対にあってはならないことだから」


フリードの中で一つの疑問が生まれた。

だがそれをアリシェの前で聞くわけにはいかない。

聞きたい気持ちを押さえ、開きかけた口を閉じた。


「でもイルノスは、諦めるどころか馬鹿な考えを持ち始めた。滅しても、人間界とレグザムが融合すればその後に生まれる人々が幸せになる。死による悲しみがなくなる。その為なら、多少の犠牲は仕方がないと」

「リーナ様は何度も説得しようと試みたんだ。けれど、イルノス様……いや、イルノスは聞く耳を持たなかった。だから、側近である俺だけがリーナ様の悩みを聞いていた」

「レオンは、私の心の拠り所になってたの。そしていつしか……恋仲になった」


アリシェは想定外の話に、目を丸くして驚いた。

まさか、レオンがリーナと恋人関係にあったとは全く思っていなかった。


「関係を隠していたけれど、イルノスはすぐに気付いた。もちろん、私たちに激怒したわ。特にレオンに対してはね」

「そして俺をヴァイルにしようとした。でも、リーナ様がイルノスから庇ってくれたんだ」


いつか見た光景を思い出しながら話す。

一人の女性がレオンの前に立ち、守ろうとしてくれたことを。

その際にイルノスに放った魔法が『ヘルバーストフレイガ』だったことも。


「『ヘルバーストフレイガ』でもイルノスは死ななかったのか」

「彼は神王よ。魔法は足止めにもならない」


死に至るまで焼き尽くす地獄の炎でも、神王にはストーブで暖まっているようにしか感じないという。


「それじゃあ、どうやってイルノスを……?」

「リーナは5つの宝玉に全ての魔力を注ぎ、レグザムの最果てにあるジャスカムに陣を張ってイルノスを封印したのだ。自分の魔力全てと引き換えにな」

「そして宝玉を様々な場所に飛ばした。揃わないように」


ウィンリウスが答えると、その話にリーナが付け加えた。

再び宝玉が揃ってしまえば、かつジャスカムに持っていけば、解放魔法を唱えるだけで封印が解けてしまう。

それを阻止するために、様々な場所に飛ばしたのだ。


「疑問が3つほどある。聞いてもいいか」

「いいぞ」

「レオンが狼になった経緯、イルノスの命を絶たなかった理由、アリシェがリーナから魔力を感じたのは何故か話してくれ」


浮かんだ疑問を言い切ると、アリシェも「全部聞きたい」と真剣な眼差しを彼らに向ける。

互いに視線を合わせることなく、先に口を開いたのはレオンだった。


「リーナ様が庇ってくれた時には俺はすでに、ヴァイル化が進んでいた。けれど、宝玉の守護者として宝玉の近くにいたからか、その影響でヴァイルにならずに済んだ。結果、狼になった」

「それでも人間の臭いが残っていた。だから、レグザムでヴァイルに襲われて大怪我していたのね」


リーナは知らなかった事実に、涙を浮かべた。

唇を噛みしめながら、「ごめんね」とレオンを優しく撫でる。

リーナはレグザムに落ちた後のレオンの行方が分からなかった。


「魔法が使えるのは、事前に魔力を練り込んだドレスを作って着ているから。だから魔力を感じることができるし、ちょっとした魔法ならドレスを通して使えるわ」

「本当に?でも、膨大な魔力を感じるよ!」

「それは見せかけ。この事態の詳細を天神界の人は知らないから、隠さなければならなかったのよ。そのためにいつも通りの私でいる必要がある。実際は、ほとんど残ってない」


リーナはドレスに練り込まれた分の魔力しか使えない。

そして、魔法を使う度に魔力は減っていく。

魔力は底を尽きそうだった。


「だがクルルは異変が起きていると言っていた」

「天神界の空を見たでしょう?それを見てそう思ったのよ」

「天気の神様ではどうにもできないの?」

「あの暗雲が生まれ、天神界を覆っているのはイルノスが原因。だから、根本を絶たない限り雲は晴れないわ。天気を司る神の機嫌による影響はそのままだけどね」


暗雲が立ち込めていても、雨が降ったり上がったりするのはイルノスではなく、天気の神による行為らしい。

アリシェは頭の中で一つ一つ整理していくように、手を小さく動かしている。

それは本人しか解らないジェスチャーだった。


「完全に倒さなかった理由は?」

「……」


今まで滑舌よく話していたリーナは、ギュッと口を閉じて俯いた。

そんな彼女に代わって、ウィンリウスが口を開く。


「我がいなかったからだ。イルノスを殺るのは我にしかできないこと」


横たわっているウィンリウスを訝しげに見つめるアリシェ。

フリードも同様に目を細めた。


「おい、こやつら無礼にも程がある!その目を止めんか!」

「だって、信じられないんだもん」

「激しく同意」

「なっ……何故こんな小娘が我の持ち手として選ばれたのか不思議でたまらんわ!」


口調を荒げて激怒しているようなので、レオンが説明を始めた。


「その話は真実だぞ。当時ウィンリウスは、唯一神王を殺せる剣としてイルノスに恐れられていたんだ。だから隠した。入れば生きて帰ってこれないという真実の湖の中にな」

「ちょ、そんな危険なところだったの!?」


真実の湖の危険性については何も聞かされていなかった。

だが、思い返せばいかに酷いものだったかを今でも実感できる。

もう思い出したくないと、首を横にブンブン振った。


「イルノスは運べたのか」

「宝玉を嵌められなかったから、あやつにも持ち運べたのだ。宝玉があってこそ我は真の力を発揮する」

「宝玉を外せばフリードでも持てるね!」

「おい!小娘、何を言っておる!あぁ、何故こんな奴が我の持ち手なのだ……」


満面の笑顔でフリードを見つめるアリシェに、ウィンリウスは呆れながらも恐怖すら覚えた。

アリシェは剣士であるフリードがウィンリウスを持つべきだと考えていた。

話の内容からして、それは不可能であると理解しながらも。


「宝玉が嵌められたウィンリウスなら、イルノスを殺せるのか」

「あぁ。方法はそれしかないんだ」


それならなぜ封印という形をとったのかフリードは知りたかった。

宝玉があるのだから、ウィンリウスさえ取りに行けば完全にイルノスを倒せたはずだ。

真実の湖がいかに危険でも、天神界では神王と並ぶ最高位の地位を持つリーナだ。

何とかなったのではないかと、そう考えた。


「そのとき、ウィンリウスが隠された場所を知っていたのか」

「知らなかった。けれど、探そうとも思わなかった。いや、思えなかったと言った方が正しいのかしら」


リーナは顔を上げようともせず、俯いたまま話し続けようとする。

そんなリーナを心配するように見守るレオン。


「元とは言え、イルノスは夫。殺すということは、できなかった」


彼を哀れむ気持ちが残っていたらしい。

そのために殺さず、封印という形でイルノスを閉じ込めたのだ。

だがその封印が弱まってきているという。


「封印が弱まると言えど、宝玉がなければ解放できないのだろう」

「そうよ。それにイルノスのように悪魔に成り下がった者は宝玉に触れることが出来ない。だから無知なアリシェと……いや、アリシェに集めるように頼んだのよ」


ちらりとフリードに視線を送るが、それを逸らすようにレオンを見やった。

このやりとりには誰も気付いていない。

ウィンリウスを除いて。


「知らないとはいえ、あたし、悪者の加担をしていたんだ……」


ショックで肩を落とし、深いため息を吐いて落ち込んだ。

それをフォローするように、レオンが明るい声で慰めた。


「大丈夫だぞ!アリシェがしたことはイルノスを倒すためのプロセスなんだからな!……プロセスって、チーズか?」

「確かに、プロセスチーズというものは存在するけどな」


苦笑するフリードは、初めて正解に近い言葉を出したレオンに、成長したなと感じた。

知らない言葉は何でも食べ物と思ってしまうレオンだ。

そんな彼も自分の答えが合っていたことに、喜びを感じていた。

話が思わぬ方向に進みつつあるが、アリシェは思わず笑みをこぼした。

同時にレオンに励まされた。


「此処には宝玉もウィンリウスもある。あとはジャスカムに行って、イルノスを倒すだけだわ」


決心したように、頷きながらリーナは拳を握った。

だが、一つだけ大きな不安要素があったのに気付いたのはウィンリウス。


「小娘は剣を扱えるのか」

「うん。トラルベルでちょっとだけ振ったよ」

「……」


自信満々に言うアリシェに、誰もが不安を抱いたに違いない。

そして同時に、イルノスを倒すという目標が遠のいた。


「……時間はあるわ。それまでに剣の稽古をつけないとね」


沈黙を破ったリーナは、アリシェに笑顔を向けると「頑張るぞ」とやる気を起こしたアリシェであった。


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