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38話 いざ、天神界へ


「何で黙って行ったの?」

「黙ってではない。手紙を残しておいた」

「まだ早朝だぞ。出発したの、早くないか?」


一行は夜が明ける前にメルポルを出た。

2時間程歩いて山のふもとに着くと、傾斜の厳しい山道が上に続いていた。

相変わらず、頂上は雲で隠されていて見えない。


「虹岬には明るいうちに着きたい」

「でも、ちゃんとお別れのあいさつしたかったな」


アリシェは欠伸をしながらも、昨夜を思い出していた。

食べたり、踊ったりしてとても楽しかった。


「アリシェ、眠い?俺に乗ってもいいぞ」

「ん、大丈夫だよ。ありがとう」


レオンの誘いを断ると、アリシェはゆっくりと歩き始めた。


「いつもなら乗るのにな」

「ちょっとは成長したってことさ」


レオンは寂しさを覚えたらしく、クーンと鳴きながら後を追った。

フリードは少しだけ感心すると、最後尾を守るようにしてついていく。


アリシェはフリードから教わった修行方法を試していた。

だが魔法は『リキュアレクション』と『ヘルバーストフレイガ』しか使えない。

どちらもとてもレベルの高い魔法であるため、倒れることは必至と考え、使わないことにした。

特に『ヘルバーストフレイガ』に関してはその威力があまりにも脅威であるため、今後一切使わないと指切りを交わしたのだった。

修行として、これから登らなくてはいけない道のりの先をずっと睨み続けること3分。

「目が痛い」と訴えたアリシェは、結局レオンの背に乗ることになった。

フリードが呆れたのは言わなくてもわかるだろう。


幸いヴァイルの気配もなく順調に登って行った。

後ろを振り返ると、メルポルの町が小さく見える。

まるで蟻のようだった。


「わあ!見て見て!すごいよー!」


その景色に感嘆していたのはアリシェだけだった。

フリードは反応せず、珍しくレオンも道の先を見つめながら歩いている。

彼らはそれぞれ物思いに耽っているようだ。

すると突然、レオンが身震いした。


「どうしたの?寒い?」

「なんか洗練されるような感じがするぞ」


山の中は確かに寒かった。

けれどレオンは毛深く、寒いとは全く感じていなかった。

むしろ、アリシェは背に乗っているため、体温が伝わり温かい。


「宝玉か」

「そうだぞ」


レオンの感想を聞くと、フリードは残り2つのどちらの宝玉かを推測する。

アリシェは両腕を大きく広げ、「やった」と喜んだ。


「あと2つ手に入れたら、会えるんだ!」


和人に会えることを思うと、自然と笑みがこぼれる。

あの悪夢も見ないで済むと考えると、今の気持ちが態度に表れる。

いつもなら一緒になって喜ぶレオンだが、どこか不安めいた表情をしていた。


「不安か?」

「……クーン。ワンワン!(……何で、俺は天神界を知っていたんだろ。そう考えるとさ、俺ってもしかしたら天神界の住人なんじゃないかって。だから、怖いんだ。天神界に行きたくない)」

「何で急に狼語を使うの?レオン、今何て言ったの?」


フリードに聞くと、「虹岬は近いぞ、だとさ」と言われた。

会話の流れからして、それはおかしいと思うのが普通だろう。

だが疑うこともなく、すんなり受け入れた。

不安に思っていることを今のアリシェに伝えたら、機嫌を損ねてしまうだろう。

フリードだけに伝えるため、狼語で話した。

不安になる気持ちを和らげるように、頭を優しく何度も撫でる。

そして、そっとレオンに耳打ちする。


「レオンの居場所がそこにあるかもしれん。大丈夫だ、何があっても俺らがついている」

「……ありがとな!」

「ちょっと、内緒話してるの?こそこそは禁止―っ」















山を登り始めて6時間経った頃。

標高が高いところに彼らはいた。

不思議なことに、道中にヴァイルが出てくることはなかった。


「レオン、大丈夫か」

「うん。大丈夫だぞ。2人とも、俺に掴まってろよ」

「え?何が始まるの?」


レオンから降りて歩いていたアリシェは、その体にしがみつく。

すると、はっきり見えていた道が急に霞み始めた。

周りの景色も、霧に隠れていく。

みるみる霧に包まれ、互いの顔も見れなくなっていた。

これを予想していたフリードは、霧の中で唯一宝玉を感じれるレオンを頼りに動くことを考えていた。


「うわー、何も見えないや。フリード、ちゃんといる?」

「お前じゃないんだ。大丈夫だ」

「ちょっと、何よそれ!」


頬を膨らますアリシェを想像すると、フッと笑った。


「――グルルルルルル」

「レオン、体調悪い?大丈夫?」

「今の声は俺じゃないぞ」


どこからか鳴き声が聞こえる。

レオンのものじゃないと知ると、急に怖くなりレオンに抱きつく力を強めた。

何も見えない状況では、フリードも剣を振るうことができない。


「レオン、アリシェを乗せて先に行ってくれないか」

「何言ってるんだよ!フリードも乗って!」

「あたしも賛成!フリード一人を置いて行くなんて絶対できないんだから!」


彼らに忍び寄る影。

それはヴァイルだと想像がついた。


「2人とも、俺に乗って!とりあえず霧が晴れるところまで、走るから!」

「だが、それでは奴らに追いつかれるかもわからん」

「いいから、早く!」


2人を乗せて走るのは容易いことではない。

走るスピードは確実に遅くなり、下手したらヴァイルに追いつかれるかもしれない。

だが生きれる可能性があるなら、それを実行するしかない。

躊躇うフリードを急かし、彼は渋々レオンに乗る。

その前にアリシェは飛び乗り、ギュッとレオンにしがみついた。


「グルルルルルルル!!ガ―――ッ!!」

「行くぞ!」


襲いかかって来たヴァイルを避け、レオンは頂上に向かって駆け出した。

疾風のごとく走るレオンは、ヴァイルとの距離をどんどん離していく。

だが上にも大勢のヴァイルが待ち伏せていた。

ヴァイルがいないと安心させておき、何も見えない霧の中に入った旅人を食らう。

これが山で暮らすヴァイルの獲物の獲り方であった。


「レオン、大丈夫!?」

「あぁ、平気だぞ」


レオンはひたすら走り続ける。

大切な仲間を守るために。

だがフリードは、虹岬が霧の中にある可能性を考えた。

それならば、着いてもこの状況は好転しない。

どうすれば霧の中にいるヴァイルを倒せるのか、思考を巡らせる。

いや、倒す必要はない。

奴らの動きさえ止められればいい。

その瞬間、ある考えが浮かんだ。

レオンを掴んでいた手をアリシェの腰にやる。


「フリード!?」

「俺が指示を出すから、その通りに従え」

「な、何なの?」


息つく暇もなく指示を出した。


「ヴァイルが石化するイメージを思い浮かべろ」

「……うん!」


アリシェは必死に思い浮かべる。

あの忌まわしい獣が、石化する姿を。

そのとき、ある言葉が頭を駆け巡った。

エルフェルン村で、ミレリアが使っていた魔法だった。


「右前方45度に放て!」

「わかった!ロクシィガ!」


フリードに指示された方角を人差指で指す。

石化系上級魔法を唱えると、指した先にあるヴァイルの気配が消えた。

何も感じないアリシェは、何が起こったのかを知らない。

だが、一つだけわかったことがある。


「……あれ?あたし、倒れてない」

「修行で魔力がついたんだ。成果あったな」


そう話しながらも、フリードはヴァイルがどこにいるのかを探っていた。

目を伏せ、音だけを頼りに気配を感じ取る。

だが、修行で最大魔力が高まったとはいえ、何発も打てないことはわかっていた。

唱えられるのも、あと2発が限界だろう。


「レオン、宝玉は?」

「かなり近いぞ!あと少し走れば着く!」


後方のヴァイルは標的から外し、前方で道を塞ごうとするヴァイルだけを排除対象にする。

あと2匹しか動きを止められない。

判断を誤ったら死ぬかもしれない状況で、フリードは深く息を吸った。


「……レオンの真正面!」

「ロクシィガ!」


同様に魔法を放つと、前方で道を塞いでいたヴァイルは石化した。

レオンが石化したヴァイルを飛び越え、ひたすら走り続ける。

残り1発。

フリードは、最後の1発を使うべきヴァイルを慎重に選定する。

そのとき、左前方から猛スピードで向かってくるヴァイルの気配を感じた。

次の瞬間、フリードは叫んだ。


「左前方30度!」


だが、アリシェの返事は聞こえない。

嫌な予感がフリードを襲う。

すぐに腰から背中、そして頭に手を這わせる。

アリシェの頭はレオンの動きに合わせて、上下に揺れ、項垂れていた。

彼女には2発が限界だったようだ。

レオンは走ることに夢中で、周囲のヴァイルに目もくれていない。


「くそっ」

「ガルルルル!」


もう終わりかと思ったそのとき、急に辺りが見え始めた。

その瞬間、フリードはレオンから飛び降りる。

素早く大地を蹴り、剣を鞘から抜き出すと、アリシェを食おうとするヴァイルを切り裂いた。


「グワ――――ッ!!」


霧が晴れつつある山道で、ヴァイルたちはどう判断したのか霧の中に隠れるように、山を降りて行った。

鳴き声にレオンは走るのを止めると、すぐさま後ろを振り返る。


「アリシェ、フリード!」

「大丈夫だ。……アリシェは寝ているだけだ。レオンこそ、大丈夫か」

「よかった。俺は平気だぞ、ちょっと疲れたけどな」


息が荒く、それを正そうとするために深呼吸を行った。

すると、幾分か楽になっていく。


「虹岬はあそこだ」


レオンが視線を向けた先には、大きな虹が空を分断するようにかかっていた。

その端っこは、この山に続いている。

下を見渡せば、雲が大地を延々と覆っていた。


「それじゃあ、行くか」


レオンの背に乗ったアリシェは、穏やかに微笑みながら眠りに浸っている。

初めてフリードとレオンの役に立てて、嬉しかったのだろう。















虹岬に着いた一行は、目の前に広がる壮大な景色を眼下に、宝玉を探していた。

アリシェはまだ眠っている。


「ここだと思うんだけどなあ」


そう言いながら前足で地面を掘っても、それらしきものは出てこなかった。


「もっと掘れば出てくるかな」

「どうだろうな」


フリードも一緒に掘るのを手伝うが、手ごたえは感じない。

すると、アリシェの腰に付けた宝玉が入った袋から、光が溢れ出した。


「此処にウーパスがいるのか」


光り出したのは橙の宝玉。

これはウーパスとの接触を可能にする宝玉である。

みるみる周りの景色は光にのみ込まれていく。

ウーパスが話し始めた。



ある約束を果たしてくれたなら、宝玉を渡そう



「もしかして、また下に戻らなくちゃいけないのか?」

「……かもしれないな」


ウーパスが宝玉を持っているならば、それは見つかるはずがなかった。

彼が渡そうと思わない限り、誰にも見えないし、触れないからだ。

だが此処まで来るのに苦労し、またヴァイルが潜む霧を通り抜けなければならないと考えると、寒気しかしなかった。


「約束とは何だ」



あの大会で優勝すること 


だが、優勝するのはそなたたちではない



「あの大会?しかも俺たちじゃないって?」


とてつもなく面倒くさそうな臭いが漂う。

レオンは何だろうと考えるが、何も思いつかなかった。

フリードも同じだった。

だがウーパスから出た言葉は、意外なものだった。



メルポルでコンテストが開かれる


そこで店の『ル・パルーゼ』を優勝させたい


私の秘伝のレシピが息子の部屋の棚に隠れている


それを息子に渡して欲しい



フリードはその瞬間に気付いた。

このウーパスの正体を。


「あなたがティルの父、パルーゼだな」

「え?そうなの?」


レオンは驚きのあまりに目を見開き、ウーパスもその言葉は想定外だったらしい。

しばらく、言葉を詰まらせて話そうとしなかった。


「安心してくれ。彼らは優勝した」

「うん!ティルたちが作った『マンタのフロアーくれ』美味しかったぞ!」

「『マンダリンのル・ガトー・オ・フロマージュ・フレ』だ」


フリードが訂正すると、レオンは「そうだった」と可愛く舌をぺロっと出した。

そしてすすり泣きの声が聞こえた。



……それなら、よかった


もう、開催されていたのだな



ウーパスは死した場所に留まる。

よって、自由行動ができない。

パルーゼはメルポルに行けないし、家族にも会いに行けない。



皆、元気だったか



「あぁ。ティルもミゼールもメリルも、皆が元気に過ごしていたぞ」


レオンの言葉にパルーゼは安心したようだ。

だが、フリードは不思議に思っていた。

料理人がどうやってヴァイルがいる霧を抜けて、虹岬まで来たのか。

そして、その死をどの方法でメルポルにいる家族に伝えたのか。

その答えは、パズルが組み合わさるように完成していく。

自ずと、どの宝玉が此処にあるのかもわかった。



君たちの言葉に、嘘偽りはなさそうだ


本当に、ありがとう



パルーゼが感謝の言葉を述べると、光は橙の宝玉に吸い込まれるように消えていく。

そしてフリードは、先ほど掘った穴を見つめる。

そこには、透明に光り輝く宝玉があった。

穴に手を突っ込み、宝玉を取り出す。


「そいや、どうやってここまで来たんだろ」


レオンは先程フリードが考えていた疑問を抱いた。


「この宝玉が答えだ」

「どういうこと?」

「この宝玉は持つ者の願いを叶える効果がある。これをメルポルコンテストで優勝商品として貰ったのだろう」


その言葉に、レオンは納得する。

だが、他にも疑問が浮かんだようだ。


「じゃあさ、何でここで死んじゃったんだろう」

「さあな」

「もしかしたらさ、クアトスが言ってた人って、パルーゼさんだったのかもね」


アリシェは目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。


「まだ寝ててもいいんだぞ。大丈夫か」

「ん。ありがとう」


レオンが気遣うと、アリシェはニッコリと笑った。

フリードはクアトスの話を思い出していた。


『もしかしたら、虹岬かもね』

『虹岬?』

『あぁ、昔聞いたことがあるんだ。あの山のどこかに虹への架け橋がある岬があるって。一人の男が虹岬に行くと言ってラスカノンを出てから、帰ってくることはなかった』

『その人は虹の向こうに行って、何をしようとしたの?』

『わからない。でも、虹は天神界とつながっているとかなんとか』


「きっと、夢で天神界を見て、行きたいって思ったんだよ。その途中でメルポルに行ったら、ミゼールさんと出会って、結ばれたの。それでパティシエになったけれど、天神界に行きたいという思いを諦めきれなかった。だから、一流のパティシエになって、コンテストに優勝したら行こうって思ってたんじゃないかな」


長々と話すアリシェの考えは、あながち間違っていないだろうとフリードは思った。

それなら、彼がここで死んだ理由も理解できるのだ。

天神界はレグザムに住む人間が立ち入ってはいけない世界だ。


「そうだったのか!アリシェ、すげー!名探偵だ!」

「でしょ!もっと褒めてもいいよ」


えへん、と両手を腰に置いて鼻を鳴らす。

レオンは調子に乗るアリシェを褒めちぎった。


「よし、虹の橋を渡ろう!」


アリシェは機嫌よく、目の前にある橋を渡ろうとした。

だがそれは肩を掴んだフリードによって止められた。


「虹、渡れると思うか?」

「うん。キツネが渡れるんだもん。あたしだって渡れるよ」


『キツネの嫁入り』という根拠のない話を元に、アリシェは自信満々に言い切った。

それに乗って、レオンも「じゃあ狼も大丈夫だな」と安心していた。


「虹は光だ。よく言えば、大気光学現象の一つだ。光の上が渡れると思うか?」

「じゃあどうやって天神界に行くの?」


すると、フリードは宝玉をアリシェに渡し、崖が見える淵まで歩いた。


「あ、危ないよ!」

「ここを飛び降りるんだ。それしか道はない」


アリシェがフリードを止めようと近寄る。

そっと下を覗き込むと、雲に隠れて何も見えなかった。


「こ、こんなの無理だよ!」

「……大好きな人に、会いたいだろ?」


フリードは心の内を顔に出さないようにしながら、アリシェに問う。

足を震わせながら後ずさる。

けれど、返事をしない代わりに、コク、と頷いた。


「アリシェはレオンと共に来るんだ」

「フリード!」


その言葉を最後に、フリードは地面を蹴って飛び降りた。

大地を覆う雲の中に飲みこまれるようにして、消えていく。

それを見ると、レオンは深呼吸した。

飛び降りることも怖いが、天神界に行くことの方がよっぽど怖かった。

だが、フリードの言葉を思い出すと、その恐怖も薄れていく。


「アリシェ、俺の上に乗って」


覚悟を決めて、アリシェは恐る恐るレオンの上に乗った。

これも和人に会うため。


「行くよ!」


レオンは駆け出すと、アリシェは今までにない程強い力でギュッと体を掴んだ。

宙に舞ったかと思いきや、ものすごい速さで落下していく。

心臓が喉から出てきそうなこの感覚に、アリシェは口を固く閉じた。

そうして、彼らは雲の中に消えていった。


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