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36話 交錯する思い 予期せぬ再会

『ル・パルーゼ』に泊まることになった一行は、2階にあるメリルの部屋を借りることになった。

ティルは「夜通し準備に徹するから」と部屋のカギを渡してくれたが、アリシェが寝るように促した。

が、そのアリシェも明日の為に厨房でティルを手伝っている。

アリシェが心配だが、彼らがついていれば大丈夫だろう。

フリードは明かりを点けると、窓辺に腰を掛けて背を壁に預ける。


「うわー、これが女の子の部屋なのか……」


部屋をキョロキョロ見回しながら、フリードの足元に来るとレオンは縮こまった。

シングルベッドの枕元には大きなテディベアがあり、淡いピンクの壁紙、テーブルの上には写真立てが置いてあった。

それに目をやると、男女が肩を寄せ合い、屈託のない笑顔が写っている。

おそらく、これはメリルとその恋人なのだろう。


先ほど、ティルがあの男の店を教え、フリードが偵察に行ってきた。

彼らもティル同様、明日の仕込みを行っていた。

店外で様子を窺っていたが、女の声も聞こえた。


「今すぐ離せ!」  「このデブが!」


女の罵声やら何やらが外まで聞こえるほど騒がしかった。

だがそのおかげで、メリルはこの中にいることを確信できた。

そのため、明日コンテスト開催中を狙ってメリルを奪還することになった。

現状を軽くまとめて話すと、ミゼールが「一刻も早くお願いします」と縋ってきた。

ティルは悲しむ様子も見せずに、厨房でアリシェに明日の手順を教えていた。

本当は、今すぐメリルに会いたいだろう。

だが、ティルは今やるべきことだけを見据えてそれに取り組んでいる。

悪く言えば強がりだが、彼は本当に強いとフリードは思っていた。


「俺たち、宝玉を集め終わったら、どうなるんだろーな」


寂しげな瞳でフリードを見つめると、深く息を落とした。

窓の外の景色を眺めていた視線をレオンに移す。


「アリシェは生前の世界に戻るんだろ。それで大好きな人と幸せに過ごすんだろ。フリードは行く宛てがありそうだしさ。でも、俺には何もないんだ」


その言葉には誤りがある。

それを指摘しようと口を開くが、レオンは続けた。


「俺って、何者なんだろ?」

「……何者かは知らん。だが、俺たちの仲間で、友であることは確かだ。それじゃあ、ダメか?」


レオンの頭を優しく撫でると、その心に生まれていた寂しさや不安は和らいだようだ。

俯いていた顔を上げた。


「ううん。すっごくうれしいぞ!」


たちまち声は明るくなり、二カッと笑って見せた。


「もしこの旅が終わったら、俺は自分の記憶探しの旅に出るぞ!自分の居場所を捜すんだ!」

「あぁ、良いと思う」

「あのな、良かったらフリードも一緒に来てくれないか?」


その言葉に対する返事に、喉が詰まる。


「フリード?」

「……あぁ、そうしよう」


疑われないうちに肯定した。

それに安心したのか、レオンはフリードにすり寄ってくる。


「ありがとな!フリード!」

「わかった、わかったから。明かりを消してくれないか」


大狼がすり寄ってきては身動きが取れない。

レオンは前足を器用に使って、快く電気を消してくれた。


「フリード、おやすみ」

「おやすみ」


レオンも悩みを抱えていたのだ。

だがそれが解消されたためか、いつにない笑みを浮かべながら、すぐに寝息をたてた。

とても気持ちよさそうだ。

しばらくレオンを見つめると、視線を外に戻す。

真黒な夜に浮かぶ月が、雲に隠れた。


「自ら望んだことだけれど……」


彼の抱く悩みは解消されそうにない。

襟を立て直そうと胸元に手をかけると、黒い薔薇の紋章が視界に入った。

そして、胸の内を誰にも聞き取れないくらいの小さな声で呟いた。


「……俺は、つらい」















メルポルコンテスト当日。

町にあふれんばかりの人が集まり、賑わいを見せている。

いくつもの予選を勝ち抜けた強者のみが出場を許される決勝戦が幕を開けた。

町の中心にある広場には、材料や調理器具、コンロなどが設置されている。

審査員は3人の美食家と会場に来た客全員である。

味はもちろん、飾り付けやその調理過程も評価の対象に入る。

そしてキッチンに立つことが許されるのは1チーム3人のみ。

メインは1人、2人はサブとして手助けするのみである。

決勝戦は『ル・パルーゼ』と『ドゥ・リシャス』の2チーム。

もちろん、『ドゥ・リシャス』はあの小太りの男がオーナーを務める店だ。


「うわ、すごい人だかりだね」

「道中はヴァイルがいるのに、よく来れたよな」

「メルポルコンテストは危険を冒してでも来る価値があるのさ」


パティシエのコック服に着替えたティル、ミゼール、アリシェは広場の裾までやって来た。

ティル、ミゼールは二度目だが、アリシェは初めてということもあり、とても緊張していた。

手に尋常ではない汗を握っている。


「アリシェ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ!」


レオンが心配するも、アリシェはグッと拳を握って親指だけを立てた。

ミゼールがアリシェの背中を撫でながら、深呼吸するように促した。

だが、彼女もその手を震わせていた。

コンテストのこともあるだろうが、メリルの安否も心配しているだろう。


「大丈夫だ。メリルのことはフリードさんに任せて、俺たちはコンテストに集中しよう」


この場をまとめたのはティル。

そして、皆を集めると肩を寄せ合った。


「あ!円陣するの!?」

「エンジンって何だ?食べ物か?」

「やってみればわかるわよ」

「よしっ!『ル・パルーゼ』絶対に優勝するぞ!二連覇だ!おーっ!」

「「「おーっ!!!」」」















同時刻、『ドゥ・リシャス』に向かうフリード。

コンテストで広場に人々が集まっているため、この通りは人気がない。

そして『ドゥ・リシャス』に着くと、通り過ぎる振りをして店内を横目に見る。

中には男が2,3人いた。

ウィンドウ越しではメリルの姿は確認できない。

手に持っている紙袋の中には、『ドゥ・リシャス』の黒い制服エプロンが入っていた。

それに着替えるため、『ドゥ・リシャス』とその隣に構えた店舗の隙間に入る。

横幅は人2人が立っても余裕がある。

通りに人がいないことを確認し、フリードは手早くエプロンを身に付けた。


「まさか貴様だったとはなぁ」


聞いたことのある声に、フリードは声のする方を睨む。

そこにいたのはトラルベルで剣を交えた相手の、ローブ男だった。

フードを脱ぐと、金色に染まった短髪が見え、意地悪そうな釣り目が笑っていた。

フリードは、そっとエプロンの内に隠した剣の柄に手を添える。


「……なぜ此処にいる」

「そう睨むな。貴様の唯一の理解者なのだからな」

「理解者、だと?」


ローブ男を鋭く睨んだ。

だが男は妖しい笑みを浮かべながら、フリードに近づいていく。

後退すれば、通りに出てしまう。

今出てしまえば、この姿を『ドゥ・リシャス』の誰かに見られるかもしれない。

それこそ、メリルを奪還できなくなる。

いや、フリードが力尽くでいけば可能ではあるが。


「あぁ、そうだよ。フリードだっけ?貴様の現状を知ってるのは俺とあの人だけだ」

「……ほぅ。お前は自由に『あの人』に会えるのか」


当然というように鼻で笑った。


「フン。当たり前だ。そういう貴様はどうなんだ?辛くないのか?」

「お前に話すことなど何もない」

「つれないねぇ。ま、今日は助言をしにやって来た。感謝しろよ」


歩みを止めると、腕を組んで壁に背を預けた。

口角を上げ、ちらりとフリードを見やる。

フリードは相手に戦意がないと知ると、柄から手を離した。


「今の天神界、ヤバいぜ」


メルポルの先にある虹岬のそのまた先にある天神界。

一行がこれから向かわなくてはいけない場所だった。


「どういうことだ」

「行ってみればわかるさ」


厳しい表情を見せたかと思いきや、それを隠すようにフードを被った。

それだけを言うと、フリードに背を向けて歩き始める。

最後に手をひらひらさせると、「じゃあな」と姿を消した。


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