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32話 彼女の想いは癒し音に導かれ

そして、今に至るという。

クアトスは苦悶に満ちた顔をしていた。


「本当に、メルディアはクアトスのことを恨んでいるのかな?あたしは、今の話を聞いていてそう思わなかったんだけど。」

「いや、絶対に恨んでいる。僕は優しい姉にあんな仕打ちをしたんだから。」

「それなら、確かめてみればいい。」

「クゥーン?(どうやって?)」


そしてフリードはアリシェと視線を交わした。

袋に目をやると、アリシェはフリードの言いたいことを理解したらしい。

橙の宝玉を取り出し、クアトスに握らせた。


「・・・これは、宝玉?」

「あぁ。握りながら、メルディアを強く思ってみろ。」


これでわかるのか半信半疑であったが、フリードに従い、クアトスは目を伏せた。

そして心の中でメルディアを思い浮かべる。

そのとき、宝玉は突然光り出した。


「うわっ、何だっ!?」


その光は、楽屋内を覆った。

しばらくすると、死したメルディアの声が聞こえてきた。




クアトス、あなたは何も悪くないわ


私があなたに謝りたいくらいなの


でもね、お願いがあるの


私を、居るべき場所に連れてって・・・




声は途切れ、光は止んだ。

メルディアの声は、皆に聞こえていた。


「・・・今のは、姉さんだ。姉さんの声だ・・・」

「ワン!(とっても優しい声だな!)」


数年ぶりに聞いたクアトスは苦悶の表情を浮かべたまま、頬に一筋の涙を流した。


「ほらね!やっぱりメルディアは恨んでなかったよ!」

「・・・あぁ!」


予想通りだと笑顔を見せるアリシェに、クアトスはやっと笑った。

レオンがクアトスの隣に座り、舌で涙を拭った。


「居るべき場所・・・」


フリードはメルディアの願いを叶えるために、その場所がどこにあるのか考えていた。

かつて演奏したことがある舞台、長年住んでいたベリュレ家本邸が候補に浮かんだ。

そして、そこにメルディアを連れていくにはどうすればいいのか。

ウーパスは死した場所に留まっているため、一度そこに行くべきなのだろうか。


「多分あそこだと思う。」


クアトスはゆっくりと立ち上がった。

心当たりがあるらしい。


「どこなの?」

「・・・姉さんの墓。姉さんが居るべき場所は、そこなんじゃないかな。」

「だが、どうやって連れていく?」


フリードが聞くと、クアトスは口を緩ませて笑った。

すると、自信満々に答えた。


「僕に任せて!」











ラスカノンの都心部から離れたところにある空中庭園。

広大な土地は草花に囲まれ、中央には大きな石碑があった。

そこにはラスカノンで名を上げた、過去の者たちの名が記してあり、周囲に彼らの墓が点在していた。

命日になると必ず訪れるメルディアの墓も、そこにある。

クアトスは自分より大きなハープを懸命に抱え、アリシェは花束を、フリードは線香を持っていた。

メルディアと書かれた碑にたどり着くと、クアトスはハープを芝生の上に置いた。


「ハープの音色で誘導するのか?」

「うん。あの場所まで聞こえるかわからないけれど、僕にはこれしかできないから。」

「ワン!(大丈夫だぞ!きっと届く!!)」


これはさすがのフリードも考え付かなかった。

アリシェはクアトスに「頑張って!」とガッツポーズを見せる。

アリシェたちを背後に、メルディアの墓前でクアトスは弾き始めた。


「姉さん、僕はここにいるよ。」


その演奏はやはり見事なもので、弾くと同時に空中庭園はこの癒し音に包まれた。

ハープは黄緑色に光り始めるが、クアトスはそれに気づかず、目を瞑ったまま演奏する。

脳裏に姉を思い浮かべながら、ハープを奏する。

そして次第に広がり、どこでどんな演奏が流れていても、すべてこの癒し音にかき消されていった。

ラスカノンを越え、風に乗り外にも音色は響いていく。

メルディアが死した場所にも、クアトスが奏でる音色が届いていく。


「メルディアが、この音の流れに沿ってこっちに来れればいいんだけど・・・」

「きっと来るさ。」


アリシェは、メルディアが来れるように祈った。












途切れることのない演奏が続くこと十分。

そのとき、橙の宝玉が袋の中で光り始めた。


「クアトス!メルディアさんが・・・」

「姉さん、来れたかな?!」


アリシェたちに振り向き、演奏を止めた。

光は三人と一匹を覆い包んだ。

そして先程と同じ、優しさがあふれるやわらかな声が聞こえてきた。




クアトス、皆さん、叶えてくれてありがとう


何度も言うけれど、クアトスは何にも悪くないのよ


悪いのは、愛の注ぎ方を誤った両親


そして、クアトスに姉として何もできなかった私


私たち三人だけではなく、クアトスも含めた家族全員で円満に過ごすことが私の夢だった


なのに苦しんでいるクアトスに対して私は何もできなかった


だから私は、クアトスにいなくなってくれと言われたときは、進んで叶えてあげたいと思ったの


今、クアトスが欲しかった愛を両親から注がれていると知って、どんな形であれ私はとても嬉しかったのよ


最後のお願い、クアトス、私の分まで長く生きてね





声と同時に光も止み、空中庭園に戻っていた。


「・・・うっ・・・」


無気力に腕を垂らし、その場に膝をついて、クアトスは空を見上げた。

姉の気持ちを聞けた、しかも恨まれていなかった。

メルディアの変わらない優しさに、また涙した。

大きな涙はぽたぽたと芝生に落ちていく。


「メルディアの気持ちが聞けて、よかったね!」

「よかったな。」

「ワン!!(メルディアはお前のことが心残りだったんだな!)」


アリシェは安堵の笑みを浮かべながら花束を、置いてあった花瓶に挿し、それを供えた。

線香にマッチで火をつけ、アリシェ、クアトスに渡す。

レオンの分はフリードが持ち、順々に線香をあげた。

これでメルディアは、新たな世界へ旅立てただろう。



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