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31話 後悔と苦悩の日々


クアトスはラスカノンで有名な音楽一家であるベリュレ家に生まれた。

姉のメルディアはバイオリン奏者、彼はハープ奏者として英才教育を受けた。

メルディアは天才的な音楽センスを持っており、実力を着実につけながらそれを極めた。


「さすがベリュレ家の娘。この音色はとても素晴らしい!」

「ありがとうございます。私たちの自慢の娘なんですの。」


聞く者すべてが絶賛するほどのバイオリン奏者になった。

一方でクアトスは、実力は人並み程度で、誰にも褒められることはなかった。

多くの演奏者が互いに競い合っているラスカノンでは、これは落ちこぼれを意味する。


「何であの子はこんなにもできないのかしら。」

「我がベリュレ家の名にふさわしくないな。」


そして両親は、メルディアだけに愛情を注ぐようになり、落ちこぼれと言われたクアトスは、両親から一切の愛も受けられなかった。

そして息子がベリュレ家の名を汚すことを恐れ、クアトスが息子という事実を隠した。


「お願いっ!母さん、父さん!僕を捨てないで!」

「・・・うるさいわね!わかったわ、代わりに私たちを親呼ばわりしないでちょうだい。」

「そうだな。この関係が外に知れ渡れば、ベリュレ家の名は落ちてしまうからな。」


クアトスの強い希望で同居はするものの、彼を戸籍から外し、大金を払って、親戚の戸籍に入れた。

クアトスだけは離れに住み、三人は本邸で暮らした。

姉は天才と称されたために、あふれんばかりの愛を与えられてきた。

メルディアが病になればすぐに医者を呼ぶなどの処置をして、とにかく最善を尽くすものの、クアトスが病に伏せても看病は一切しなかった。

心配すらしなかった。


「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」

「今薬を持ってくるから、待っててね。」


だがそんなときは、メルディアがクアトスの傍について一人で看病した。

メルディアは常に弟であるクアトスのことを気にかけていたのだ。


『何で僕を愛してくれないの?ハープを奏でるのが下手だから?』


まだ幼いクアトスでも、愛されない理由は感づいていた。

自分を嫌う両親が憎かったけれど、それ以上に愛されたい気持ちが強かった。

両親の愛を受ける姉さえいなくなれば、その愛情は自分に向けられるのではないか。

そう思ったクアトスは、姉さえいなくなればいいと考えた。


そしてメルディアが、治療が困難とされた病にかかった。

唯一の治療法である癒しの宝玉を探してほしいと医者に言われ、両親は必死に人員を総動員させて探した。

だがいくら探しても見つからなかった。

なぜなら、クアトスが先に見つけだしていたからだった。

いつも自分を心配してくれた姉を死なせるわけにはいかない、という純粋な想いに従って探した。

でも、両親に愛されたいがために、考えたことを実行する良い機会だと思った。


『姉さんには遠くに行ってもらって、ここからいなくなってもらえばいい!』


両親がいない隙を見計らって、クアトスは宝玉の力でメルディアを治療するが、条件を提示した。


「姉さんにこの家からいなくなってほしいんだ。」

「・・・いいよ、それがあなたのためになるなら。」


メルディアは嫌がる表情を全く見せず、快く笑顔でそう答えた。

翌日、クアトスが調達してきた仮死薬で、メルディアは死亡と判断された。

死を悲しみ泣き叫ぶ両親は、その日に葬儀を行った。

メルディアは白い棺に入れられ、喪服を着た人々により葬儀場に運ばれる。

そして誰もいない隙にクアトスはメルディアを棺から出した。


「このずっと先にある街に宿をとってあるから!あと、お金も渡しとくね!」

「クアトス・・・」


メルディアが生活に困らないようにと、宿泊先や大金を用意していたクアトス。

こっそりと二人で葬儀場を抜け出し、とりあえずラスカノンに近い街に姉を移動させようとした。

だがそのとき、予想していなかったことが起きた。

一匹のヴァイルが二人の行く手を阻むようにして立っていた。


「ヴ、ヴァイルだっ!!」

「クアトス、逃げよう!!」


メルディアはクアトスの手を握り、来た道を懸命に駆けながら戻るも、すぐに追いつかれてしまう。


「ヴォォォォ!!」


ヴァイルはクアトスを狙って勢いよく襲いかかってきた。

そのとき、クアトスを思い切り突き飛ばしてメルディアがその牙にかかった。

食われそうになったクアトスを、彼女が体を張って守ったのだ。


「・・・お願い、早く逃げて・・・」

「姉さんっ・・・」


クアトスは倒れた姉に背を向け、涙ながら全速力で葬儀場に戻った。

こうして、メルディアはヴァイルに食われて死んだ。

葬儀場に戻ると、死を惜しみ悲しむ声が絶えない皆々が、棺が燃えていくのを見ていた。

涙する面々を見て、今さっきの出来事を思い出して、クアトスはまた泣いた。

噛まれた痕から血が滲み広がって行くメルディアの姿が焼き付いて離れない。

唯一自分を愛してくれた人を、死なせてしまったことをとても後悔した。


だが、両親の態度は依然にして変わらなかった。

姉が生きていようが死んでいようが、クアトスは愛されなかった。

それを知り、自分の過ち、愚かな考えを改めて悔やんだ。


どうすれば償えるか考えたとき、クアトスはラスカノンで有名になることを思いついた。

姉の分まで、ラスカノンで活躍しようと意気込んだ。

クアトスは、姉の病を治した宝玉を、姉の形見と思ってハープに埋め込んだ。

それを演奏すると、クアトスはたちまち天才児と称されるようになった。


「すごいじゃないか。聞いていて心が洗われるようだよ。」

「そ、そうですわね。私たちの自慢の息子ですの。」


両親はメルディアの死を悲しみながらも、クアトスに愛情を注ぐようになった。

戸籍を戻し、クアトスの住まいは本邸に移し、世間に息子であることを堂々と発表した。

クアトスはこのことが素直に、とても嬉しかった。

しかし、自分がメルディアを死に追いやってしまったことを、強く、強く後悔していた。

もし自分が姉の立場なら、弟を強く恨むかもしれない。

弟によって、充実して幸せだった生活を壊され、死まで追いやられたのだから。

それを考えると、こんなことじゃ姉の償いにはならないと思った。

だから、姉の恨みを晴らすにはどうすればいいのか、ずっと考えていたという。

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