30話 交換条件
スタッフらに見つからないようにと、早足で歩く。
そして"クアトス様"と書かれた紙を張り付けた扉を見つけた。
「ここじゃない?」
ドアに取り付けられた曇りガラス越しに、部屋の電灯がついていることが分かる。
クアトスはこの中にいるだろう。
フリードが軽くノックすると、中から声が返ってきた。
「はーい」
「失礼する。」
ドアを開けて中に入ると、座敷で胡坐をかき、雑誌を読んでいたクアトスと目が合った。
「あれ?君たちはさっきの・・・」
「クアトス、演奏よかったよ!それに席もふかふかしていて、もう至れり尽くせりよ!」
アリシェは走ってクアトスの向かい側に座ると、彼の演奏を褒めつくした。
「ワン!(おう!よかったぞ!)」
レオンも笑顔で喜びを表した。
だがフリードは無表情でどこかを見つめていた。
「喜んでもらえて嬉しいよ。ぜひ、君の感想も聞きたいな。」
その様子が気になったのか、フリードに話を振った。
すると、黙っていたフリードはクアトスを見つめながら言った。
「いくら癒し音といえど、宝玉の力では負の感情は隠しきれん。」
褒めの言葉を期待していたクアトスには、予想外の返答が返ってきた。
その言葉にショックを受けたように、視線を落とした。
「ちょっと、フリード!何を言って――― 」
「ワン!(ここに宝玉はなさそうだぞ!)」
アリシェの言葉はレオンによって遮られる。
「おそらく宝玉の在り処を、クアトスが知っているだろう。・・・違うか?」
「だから、クアトスは持っていないってば!さっきそう言ってたでしょ?」
アリシェは、何で信じないの?とフリードに発言した。
だがフリードは無視して、クアトスを問い詰める。
「・・・聞いてもいいかい?」
「あぁ、何だ。」
「何故君はそう思ったんだ?」
クアトスは口角を上げて笑みを作るも、言葉には少々怒りが込められていた。
臆すことなく、フリードは思ったことを包み隠さず述べた。
「姉への曲は迷いを、親への曲は憎しみを感じた。だがパンフレットには家族円満と書かれている。本当は、違うんじゃないのか?」
鋭い視線を投げかけると、クアトスは目を大きく見開いた。
どうやら図星らしい。
クアトスが口を開くのを待つと、何やら鞄を漁り始めた。
何を探しているのだろうか。
もしかしたら凶器かもしれないと考え、フリードは静かに剣の柄に手を携えた。
「確か、君たちの目的は宝玉だね?それなら、交換条件としないか?」
「クアトス・・・」
クアトスはようやく開き直り、宝玉の存在を認めた。
だが彼が嘘をついていたことに、アリシェは驚きを隠せずにいた。
そのとき、アリシェは気付いた。
先ほどフリードが言っていた、「お前は人を疑うことを知れ」というセリフを思い出した。
あのときから、フリードは気付いていたってこと?
「俺たちの条件は宝玉を貰うこと。お前の条件は何だ?」
「僕は姉に恨まれている。その恨みを晴らすにはどうすればいいのか、教えてくれないか。」
「お姉ちゃん?」
「ワン!(俺は初耳だぞ!)」
レオンとアリシェはパンフレットを見ていないため、家族構成を知らなかった。
そして鞄から革製のカード入れを取り出すと、中から1枚の写真を取り出した。
それを机上に置き、アリシェたちに見せる。
そこにはクアトスを含めた家族四人が写っていた。
両親、姉は笑みを浮かべているが、クアトスは無表情だった。
「クアトスだけ笑ってないよ?」
「・・・とても笑っていられるような状況じゃなかった。」
はぁ、とため息を漏らすクアトスの瞳が虚ろになる。
この様子に、つらい心境を悟ったフリード。
だが彼の条件を叶えるために、聞かずにはいられなかった。
「何か恨まれるようなことをしたのか?」
「あぁ。・・・まず、最初から話すべきかな。」
誰にも知られたくない事情らしい。
そうして、クアトスはゆっくりと話し始めた。




