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28話 音楽都市 ラスカノン


「住居者は住民証明書を、演奏者は簡単な演奏を、鑑賞者はチケットを見せてください。」


ラスカノンに着いたはいいものの、一行は都市の入口を守る門番に足を止められた。

身長の二倍くらいある外壁が、ラスカノンを囲んでいる。

中はネズミーランド約10個分の広さで、入口は東南西北の4か所に配置されているらしい。

住民証明書も、チケットも持っていないため、演奏という選択肢しか残っていない。


「あたし、リコーダーならできるよ!」

「リコーダーを持っているのか?」


フリードが聞くと、アリシェは首を横に振る。

冒険するのにリコーダーを持つ冒険者など、そうそういないだろう。


「それなら来た道をお戻りください。」

「口笛はどうかな?あたしはできないけど。」

「ワン!(俺もできない。)」


引き下がるわけにもいかず、口笛という手段を思いついたアリシェ。


「・・・ヒュヒュ~ひゅ~♪」


少し躊躇いながらも、フリード渾身の口笛。

この曲は、世間的にとても有名な"森のくまさん"である。


「却下。」


門番は容赦なくそれを不合格とした。

そのことに、少しショックを受けるフリード。

恥じらいを勇気に代えた結果が、実を結ばなかった。


宝玉がラスカノンにあるのは間違いない。

どうしても入らなくてはいけないのに、この状況を打破できそうになかった。

そしてアリシェは最終手段に出た。


「レオン!!魅せちゃいなさい!」

「ワン?(何を?)」


アリシェの考えていることがわからないレオン。

するとアリシェは門番を見つめ始めた。

下から目線で、目を潤し輝かせて、物を強請(ねだ)るようなポーズを取っていた。

レオンに目配せして、同じことをしろと合図した。


「・・・クゥーン・・・(門番さん、入れてください)」


アリシェに便乗したレオンは、同様の眼差しを向けた。

可愛く見つめて、可愛いから許す的な感じで入れてもらおうという作戦だった。

これには門番だけでなく、フリードも呆れてものが言えなかった。

そしてまた却下しようとしたそのとき、ラスカノンから誰かが出てきた。


「この人たちは、僕の友人だよ。」

「ク、クアトス様!!」


門番は現われた男を見るなり、深々とお辞儀をした。

見知らぬ男、クアトスに友人と言われても、いつそうなったのか誰も覚えはなかった。

アリシェは正直に「違うよ」と言うだろうと思ったフリード。

先読みは当たり、アリシェは否定する意見を言おうとしたので、その口にそっと手を当てた。

アリシェと視線を交わす。


「通してくれるよね?」

「もちろんでございます!さぁ、お通りください!!」


クアトスという男の友人と言う立場に立たされた途端、門番の態度が180度変わった。

アリシェたちに対し、お辞儀したまま頭を上げず、許しを乞うてきた。


「大変失礼いたしました、何卒お許しを!」

「・・・しょうがないなぁ。」

「ワン!(無礼な奴だぜ、ホント。)」


アリシェとレオンもまた、すっかりその気になっていた。

上から目線な態度のまま、門番の前を通り過ぎる。


外壁からくりぬかれたアーチ型の入り口を抜けると、目の前に住宅街が広がり、都市中央に高層ビルや大劇場が集中しているのが一見で分かった。

広く開かれた道はコンクリートで整備されており、此処から都心部に向かって真っすぐに伸びている。

道脇には花や草木が並び、明るく陽気な音楽が絶えず流れている。

近くにバス停があり、都心部に向かう人はバスが来るのを待っていた。


「助けてくれて感謝する。だが、何故こんなことを?」

「困った時はお互い様さ。助け合うっていうのが道理ってものだよ。」


クアトスは二コっと微笑んだ。

散歩しているときに、アリシェたちを見かけたらしい。


「ワン!(ありがとな!!)」


レオンが元気よく吠えると、クアトスはレオンの頭を撫でた。

そのとき、レオンは宝玉の力を感じたときのように、うっとりする心地よさを強く感じた。

それは間接的なものでなく、クアトスの手から直接伝わってくる。


「この子、可愛いね。犬なの?でも犬にしては大きすぎるような・・・」

「狼だよ。レオンって言うんだよ。」


アリシェが教えると、クアトスはそうか、と頷いた。

そう言って撫でなですると、そっと手を離した。

同時に、あの心地よさも消え失せた。


「君たちはどうしてここを訪れたの?」

「それは――― 」

「あたしたちは宝玉を集める旅をしているんだけど、その一つがラスカノンにあるんだって。それでその宝玉を求めて来たの。」


初対面の相手に、宝玉の話をすることを避けようとしていたフリードの思惑を、見事に裏切ったアリシェ。

正直すぎるにも程があるだろう、とフリードはため息を吐いた。


「・・・宝玉?」

「うん。何か知ってる?」

「いや、俺は知らないな。」

「ワンワン!!(嘘だ!お前から宝玉の力を感じだぞ!!)」


レオンの言葉が唯一理解できるフリードは、その言葉に驚き目を見開いた。

そしてクアトスを舐めるように見つめるが、それらしきものは持っていないらしい。

だが、鼻を触り、瞳をそらした瞬間を見逃さなかった。

これは嘘をついているときの特徴ともいえる仕草だった。


「そっか、そうだよね。ラスカノンは広いし。」


アリシェはクアトスの嘘を知ることなく、それを信じた。


「そういえば、あの門番はお前のことを知っていたみたいだが、知り合いなのか?」

「いいや、初対面だよ。自分で言うのもなんだけど、僕はちょっとした有名人なんだ。」


「もしかして、演奏で?」

「そう、ハープの演奏さ。・・・あ!今日演奏会があるんだけど、よかったら来てよ。」


ポケットから長財布を取り出し、そこからチケットを三枚出して渡した。

そのチケットは金色に輝き、黒い字で日時や会場名などが書かれてある。

上にはひときわ大きな字で、"クアトス・ベリュレの癒し音コンサート"とあった。


「やったー!!ありがとう!!!」

「ワン!!(楽しみだな!!)」


アリシェはとても嬉しそうにはしゃいだ。

嘘をつかれたものの、演奏会に招待されたことが嬉しいレオンも一緒になってはしゃいだ。


「バスに乗って都心部まで来れば、あとは案内板に従って来れるはずだよ。」


クアトスはそう言うと、近くに止まっていた黒く車体がやけに横長のリムジンに近づいた。

あれはクアトスの自家用車のようだ。


「それじゃあ、僕は先に行くよ。またね。」

「うん!後でね!!」


互いに手を振り、クアトスはリムジンに乗り込んだ。

そして、都心部に向かって走り出した。


「演奏会に行こう。」


もし宝玉をクアトスが持っているなら、まずは彼に近づくしかない。

クアトス主催の演奏会に行けば、彼についての情報も何か掴めるだろう。


「もちろん!」

「ワン!?(そいや、ハープって何だろう?食べ物か!?)」

「ハープは弦鳴楽器で、弦を指で弾いて演奏するんだ。食べ物じゃない。」


初めて聞くものはすべて食べ物だと考えるレオンの思考を、フリードは正した。


「レオンの犬声がわかるの?すごいね!」


とびっきりの笑顔で、フリードに尊敬の眼差しを送った。

馬鹿正直なアリシェに、クアトスが宝玉を持っているなんて今はまだ推測にすぎないことを言ったら、この先どうなるかわからない。


「・・・お前は、人を疑うことを知れ。」

「え?どういうこと?」


だから、このことはレオンとフリードの心に留めておくべきだ。

そう判断したフリードは、レオンと目を合わせ、心内を悟らせた。

レオンは頷き、それを理解したらしい。


「人を疑うって・・・?」

「ワンワン!!(さぁ、演奏会にレッツゴー!!)」



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