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26話 リュナの思い


「・・・あれ?ここは・・・」


アリシェはうっすらと片目を開けると、大きな欠伸をした。


「おはよう!!アリシェ!」

「エルフェルン村のリュナの家だ。・・・忘れたか?」


刻は昼を過ぎたらしい。

外ではしゃぐ子供たちの声が聞こえる。

聞いていて、とても楽しそうだった。

そしてアリシェは、両隣にいる2人を交互に見つめた。

怪我の有無を確かめ、元気そうな姿に安堵した。


「2人とも無事でよかった。でも、リュナは・・・」


リュナの家なのに当主がいない状況に、アリシェはリュナの死を改めて確信した。

視線を落とし、暗い表情になる。


『またあたしは、一人守ることができなかった・・・』


トラルベルでのミアノの両親を助けられなかったこともあり、自己嫌悪に陥った。


「俺、村人たちに知らせてくるぞ」

「あぁ、頼む。」


フリードの熱心な看病と、レオンの高い自己治癒力により傷は完璧に治った。

痕も残っていないし、頭痛も引いていた。

レオンは引き戸を前足で器用に開けると、出て行った。


「これからリュナの葬式が始まるが、出れるか?」

「・・・うん。でも、あたしリュナに合わせる顔がない・・・」


リュナの死は自分の責任だと思い込んでいるアリシェ。

その様子に、フリードは慰みの言葉をかけたかったが、それは見つからなかった。

今どんな言葉をかけても、アリシェの気持ちを軽くしてあげることはできないだろう。

そして引き戸からレオンが現われ、準備が出来たとの知らせが届いた。

こうして2人は、リュナの家を後にした。


村人たちの提案で、リュナを枯れた桜と共に火葬することになった。

リュナの葬式と、宝玉の力からの解放、つまり桜を燃やすことでこれからは自力で困難を乗り越えるという意思表示を兼ねた式が始まった。

桜の根元で横たわるリュナの、死に顔はあのときのままだった。

色とりどりの花に囲まれ、血に染まっていた巫女服は新調してあり、リュナは幸せそうな笑みを浮かべていた。

この村には喪服を着るという習慣はないらしい。

いつも通りの土まみれの服で、米や水、そして塩に漬け長期保存していた大切な食糧のナスやキュウリを供えた。

線香は皆で一斉にあげるのが村の掟だという。

村を変えてくれたリュナの死を悼んで、すすり泣きがあちこちから聞こえた。

その中にはもちろん、アリシェもいた。


「ごめんね、ごめんね、リュナ・・・」


両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながら、肩を震わした。

手から腕に、そして地面へと涙は流れ、染み込んでいく。

フリードはそっと、アリシェの肩を抱いた。

隣で目を伏せ、黙とうを捧げるレオン。


「ひっく・・・あたし、・・・誰も・・・うえっ・・・助けられないんだ、・・・守ることさえ・・・」

「アリシェは頑張った。リュナもそれをわかっているはずだ」


「でも・・・あたし・・・」


泣き続けるアリシェに応えるかのように、袋の中で橙色の宝玉が白く光りだした。

そしてそれは村全体を覆った。




アリシェには本当に感謝してるのよ


アリシェは村の皆を守ってくれたし、正しい方向に導いてくれたんだから

それにあなたの言うとおりだったね


あたしの死を悲しむ人は本気でいないと思ってたの


村に置いてもらって、皆に良くしてもらったけど、あたしに血のつながった本当の家族はいなかったから


でもこんなに思われてたってこと、教えてくれたのはアリシェよ


あたし、本当に嬉しかった


アリシェたちに、この村の皆に、出会えて本当によかった


だから前を向いて、アリシェ・・・




それは間違いなくリュナの声だった。

姿かたちは見えないものの、暗く落ち込んだアリシェが気がかりだったリュナは、この気持ちを伝えたかったのだろう。

その思いに宝玉は反応したのだ。


「・・・リュナ・・・」


そして、村を包んだ光は消えた。

もう二度と聞けることのないリュナの声に、村人たちはまた涙を流した。

1人1人火のついた線香を持ち、皆で一斉にあげた。

線香から出る煙は昇っていく。

そして桜と共にリュナが燃え行く姿に、アリシェは声をあげて泣いた。

レオンも遠くに響くように、天まで届くように、悲しみの咆哮をあげた。

フリードはしっかりとこの光景を目に焼き付け、心の内で誓った。

アリシェは必ず俺が守る、と。


この世界、レグザムでの死は、別世界への旅立ちを意味する。

こうしてリュナは、新たな世界へ旅立っていった。






「・・・俺たちも行こうぜ!」


葬式も終わり、ひと段落ついた頃、レオンは言った。


「やだーっ!!もっと遊ぶのーっ」


そう言いながらレオンの手足にしがみつく子供たち。


「こらっ!邪魔しないの!いらっしゃい!!」

「やぁーだっ!!」


子供たちは親に無理やり連れて行かれた。

アリシェが眠っている間に、レオンは子供たちの遊び相手をしていた。

そして、子供たちの人気者になっていたのだ。

この村では、レオンが人間と同じように話しても、好奇の視線にさらされることはなかった。


「アリシェさん、フリードさん、レオンちゃん、ありがとうございました。」


村長亡き今、村を代表した村人が礼を言うと、頭を下げた。


「俺、女の子じゃないぞ!!」

「こちらこそ、良くしてくださりありがとうございました!」


レオンを無視して、アリシェも笑顔で礼を言った。

ひとしきり泣き、すっかり元気を取り戻したアリシェを見て、フリードは微笑んだ。


「それでは、お気をつけてくださいまし。」

「村の皆も頑張ってくださーい!!」

「じゃーな!!」


手を振りながら道を行く一行は、見送られながら次の宝玉の在りかへと向かった。


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