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25話 夢逢瀬、再び

デスクが並び、その上にはパソコンやら資料がたくさん積まれている。

スーツを着た人々が行き交えば、座ってパソコンに向かう人もいる。

どこかの会社にアリシェはいた。

もちろん、目の前に居る人たちにはアリシェの姿は見えない。

電話が鳴り、キーボードを叩く音がし、話し声が絶えない一室。

どうしてこんなところにいるのだろう。


鷹谷(たかたに)ーっ!昨日頼んだアレは完成したのか!?」


少し離れたデスクに座る部長らしき人が呼んだ名前に、アリシェは反応する。

鷹谷とは、和人の名字である。


「・・・あ、すみません!!今すぐ取りかかります!!」


名前を呼ばれ、立ちあがった1人の男。

それは紛れもなく和人本人だった。


「まぁ、あんなことがあったから無理は強いないが、今日中に作れよ。」

「はい!」


今見ている光景は、渚沙死後の世界なのだろう。

和人は再び座ると、カタカタとキーボードを叩き始めた。

アリシェは和人の隣に立ち、その様子をまじまじと見つめる。

彼は手元にある資料とパソコンの画面を交互に見て、何かを比較しているようだ。


『ここは和人の職場なんだね。』


スーツを着て一生懸命仕事に取り組む姿を初めて見た。

いつもと違った一面に、胸が締め付けられ、体中がカっと熱くなるのを感じた。

これは胸キュンというものだろう。


『かっこいいな、和人。手伝えたらいいんだけどな。』


できることなら和人の好きなブラックのコーヒーを入れてあげたい。

そう思っていた矢先、あの女性が和人に近づいてきた。


『あっ、あの人!!』


和人を見つめていたあの女性が、いくつかお茶を持って和人のところにやって来た。


「お疲れ様です、鷹谷先輩。」


そう言ってお茶を、いや、コーヒーを和人に渡した。

頬を赤らめながら笑顔で渡すと、それを受け取った。


「あぁ、ありがとう。」


お盆に乗っているのはすべてお茶であるが、和人に渡したものだけはコーヒーが入っている。

一口飲むと、それをデスクに置いて、仕事を始めた。


『うっ、何でこの人が・・・。しかも和人のやつだけコーヒーだ。』


アリシェがしてあげたいことをこの女性がやり遂げた。

そして和人のものだけコーヒーにするという特別扱いな感じ。

そのことに嫌悪感を抱いた。


『和人はブラック以外は絶対飲まないからなー。飲んでるってことは、絶対あれはブラックね』


あの女性が和人の好みを知っていることがまた悔しく、なぜか寂しかった。

今の自分では、好きな人のために何もしてあげられない。

そのことがより強くそう思わせるのかもしれない。


「これ、置いときますね。」


女性は懐のポケットから、何やら白い紙きれを取りだすと、和人のデスクに置いた。


『あれ、何だろう?』


嫌な予感で胸がざわつき始めた。


「わかりました。」


それに見向きもせず、和人は仕事に集中した。

その様子にクスリと笑うと、女性はようやく隣のデスクに移動した。


『やっと行ったか・・・』


とりあえず一安心したアリシェは、和人の仕事している姿を見つめた。

だが、あの四つ折りの白い紙の内容が気になって仕方がない。


垢川(あかがわ)は本当に鷹谷が好きなんだね。」


隣のデスクから聞こえてくる話し声。

その声に振り向くと、そこにはデスクワークしている男性と、先程の女性が話していた。


「はい、大好きです!だから、傷ついた彼を癒してあげたいんです。」


ニコっと笑って見せる垢川と呼ばれた女。

そのとき、アリシェの身体に悪寒が走った。


「そうか、独り身になった鷹谷を癒してやってくれ。・・・なんて言ったら、あいつの彼女に怒られるかな?あはは。」

「でも、今それができるのは私だけだと思ってますから。うふふ。」


この2人、特に垢川という女性に対して、天罰を下してやりたい気持ちになったが、それを必死に押さえた。


『こんな人に、和人を渡したくない!』


心からそう思った。

そう言えば、こんなに近くで話しているのに、和人にはこの会話が全く聞こえてないらしい。

その証拠に、パソコンとにらめっこしながら、キーボードを叩く音を止めない。


『和人は相手にしてないみたいだし、安心していいよね。』


そう思おうとするが、どこかで安心できない自分がいた。

垢川に和人を持っていかれる気がしてならなかった。


そのとき、アリシェは不可抗力によって和人から引き離される。

それに抗うことはせず、遠くなっていく和人をずっと見つめ続けた。


『あたしがそっちに戻るまで、待っててね、和人。』


今のアリシェには、そう願うことしかできなかった。

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