21話 この思い、伝われ!!
リュナは形だけでもと、身清めを続けるために残った。
2人はリュナの家に戻ると、いくつかの蝋燭に、置いてあったマッチで火を灯した。
「レオン、大丈夫かな?」
「あぁ、大丈夫だろう。」
大狼の足に人間が勝るわけがない。
そう確信していたフリードも、レオンの行方が気になっていた。
「そうだね」
腰を落とすと、アリシェは寝転がった。
そのとき、引き戸をたたく音がした。
「誰だろ?」
上半身を起こし、引き戸の向こう側に目を細めた。
フリードが引き戸をそっと開けた。
「こんばんわ。リュナから言われての。こんな状況じゃ水しか出せなくて悪いんじゃが、これで喉を潤してくだせぇ。」
白髪で顔が皺だらけのおじいさんが、竹の筒に入った水を2個を渡してくれた。
アリシェはそれを喜んで受け取った。
「ありがとうございます!・・・ぷはーっ。おいしいですね!」
「・・・」
勢いよく飲みほしたアリシェとは対照的に、フリードは口にしようとしなかった。
「この水は口に合わんでしょうか?」
「いや、そういうわけでは・・・」
飲むのを渋っていると、アリシェはフリードから水を取り上げた。
「人の好意は受け取るのが礼儀ってもんよ。ほら、飲んで!」
「おいっ、ちょっ――― 」
ゴクリ。
無理やり水を飲まされたフリード。
「それではごゆっくりお休みになってくださいまし。私は失礼します。」
一礼すると、引き戸を閉めたおじいさん。
「あのおじいさん、優しいね。はぁ~、なんだか眠くなってきた。」
欠伸をしながら再び寝転がる。
そしてまぶたを閉じ、間もなく寝息を立て始めた。
「やはり、これは・・・」
フリードに強い睡魔が襲いかかった。
負けまいと必死に目をこすったり、肌をつねったりする。
だが、抵抗も空しく、フリードも眠りについた。
翌朝。
リュナは身清めを終え、儀式の準備ができたと伝えられて家を出た。
桜の花弁は全て消え、枝はところどころ変色している。
桜は枯れ始めていた。
村人は全員揃って、リュナが現れるのを待っていた。
そして村長であるマークスは、桜の木の前で立っている。
リュナは黙ったままマークスの前まで歩き、マークスの背後にある桜に向かって礼をした。
マークスの後ろには、小さくて赤い球体が、米と水に挟まれて供わってあった。
これがアリシェたちが言っていた宝玉なのだろう。
「さぁ、これから儀式を始め――― 」
「待ってください、皆さんに聞いてほしい話があります!」
マークスの言葉を遮って、リュナは村人たちの方を見た。
「・・・何じゃ?」
マークスが怪訝そうな顔をしながら、リュナに聞いた。
「その宝玉の力に頼らず、私たち自らの力で不作を乗り越えましょう!!」
「・・・あいつは何を言ってるんだ?」
「今の話、どういうことだ?」
予想にもしなかった言葉に、村人たちは困惑した。
そして宝玉のことを知らされていないため、言っていることの意味がわからずにいた。
「この宝玉に血を吸わせることで、その力を吸収した桜は咲き続け、桜から発する宝玉の力で、今まで豊作を実らせてきました。」
この話に皆が疑った。
「それはまことか?先代の血がもたらす力とは、つまりそのちっこい玉の力ということか?」
「はい。そして、あたしがここで死んだとしても、またいつか不作になるときがやってきます。そのときも誰かを殺して豊作を得るでしょう。こんなことが永遠に繰り返されていいのでしょうか?」
リュナは皆に訴えた。
自分が死にたくないという思いだけじゃなく、村の将来を心配している気持ちも伝えたかった。
「人の死で富を得るなんて、卑劣なことだと思いませんか?」
「確かに・・・」
「それはよくないな。」
「猪がやってくるなら、畑の周りに柵を立てればいい。水の枯渇が原因なら、近くの川から水をひけばいい。・・・違いますか?」
この思いは、村人に届いていく。
「先代の血とかいうやつに頼りすぎて、自分たちで解決しようだなんて思ったことがなかった。」
「こんな儀式、行うのを止めよう!」
「自分たちの力で、村の危機を乗り越えましょう!」
村人たちにリュナの思いは、浸透した。
そう思った時だった。
「そんなことしても、必ずや豊作になるとは限らんぞ!!いいのか!?」
儀式反対の声にマークスは怒った。
「やってみなきゃわからないだろ!」
「そうだそうだ!」
声を荒げても、村人たちの考えはすでに変わっていた。
マークスの考えに反対する意見が増え、言い合いになった。
カッとなったマークスは、宝玉と、米の横に供えられていた短剣を手に取った。
「マークスさん!」
「短剣を置くんだ!」
「うるさい!何のためにお前を置いてやったと思ってるんだ!」
リュナや村人たちの制止する声も届かず、マークスは怒りに身を任せていた。
「やめて!マークスさんっ!!」
「今ここに清き乙女の血を捧げん!!」
躊躇いなくリュナの心臓めがけて、短剣を突き刺し―――




