2話 死別
公園を出てしばらく歩くと、大きな通りに出た。
午後九時だというのに、頻繁に車が行き交うのは、近くに大きな駅があるからだろう。
駅周辺はデパートや居酒屋などがあり、仕事帰りの人や学生、家族連れなどで賑わっている。
駅から帰る人の波にのって、2人は歩いた。
この通りに、渚沙の家がある。
「いつも送ってくれて、ありがとう」
「当たり前だろ!夜道を女一人で歩かせられるか!」
疲れてるのに、いつも気遣ってくれる和人。
そんな優しい和人に、渡したいものがあった。
つないでた手を離し、渚沙はカバンに手を入れて何かを取りだした。
同時に和人も、ズボンの後ろポケットから取りだした。
「あのね、和人―― 」 「渚沙、これ―― 」
2人が手にしたものは、遊園地のマスコットキャラクターのキーホルダー。
「これ、和人にプレゼントだよ!もしかして、それ・・・」
「おう!これは渚沙に渡そうと思って、さっき買ったんだ。」
絵は違うが、作りが全く同じのキーホルダーを、互いに渡し合う。
和人に渡されたのは、"みき"というクマの男の子が描かれたもの。
渚沙は"みみ"というクマの女の子が描かれたキーホルダーを受け取った。
「・・・あはは!あたしたち、本当に気が合うね!」
「そうだな!」
前方で歩行者信号が青く点滅を始めた。
「ありがとう、和人。ずっと大切にするね。」
「すっげぇ嬉しい!!ありがとな、渚沙。」
和人はそれを、大切にショルダーバックに入れた。
そして、横断歩道の前で止まる2人。
「次の信号で、いいだろ?」
「うん。」
ここを渡って10歩も歩けば、渚沙の家に着く。
家に着けば、それは別れを意味する。
次会えるのは、また数カ月先になる。
和人には、言おうと決意していたことがあった。
「あのな―― 」
和人が言いかけたそのとき、渚沙の横を自転車が通った。
ドンッ
自転車に乗った男と渚沙の腕がぶつかった。
「いたっ」
「大丈夫か!?あいつっ・・!」
横断歩道を渡って行った自転車を睨みつけながら、渚沙の腕をつかんだ。
傷がないか確かめる。
見たところ、外傷はなさそうだ。
「だいじょーぶだよ・・・・あれ?」
しっかり握りしめていた"みみ"のキーホルダーがなくなっていた。
「どうした?」
足元を見ても落ちていなかった。
周囲を慌てて見回すと、それは横断歩道上に落ちていた。
信号はすでに赤を示していた。
「見つけたっ!!」
信号に気付かずに、走り出す渚沙。
「危ない、渚沙!」
渚沙はキーホルダーを手にして安心した。
「よかった、大丈夫だよ!キーホルダーは無事―― 」
プップ――――――ッ
「・・えっ?」
クラクションが鳴った方に振り返ると、向かってくる車のライトに照らされ目を細めた。
「なぎさああああああああああ!!!!」
キキ――――――ッ
すぐさまブレーキ音が鳴り響いた。
和人は駆けつけようとしたが、すでに遅かった。
鈍い衝突音の後、痛みより先に意識が遠のいた。
「渚沙っ、渚沙っ!!」
頭から大量の血を流し、目を伏せた渚沙を抱きかかえる。
体のあちこちも、ひどい傷を負い、血の流れは止まらない。
渚沙をひいた運転手は、車を止めすぐに駆け寄った。
「おいっ、まさか・・・」
横断歩道の手前で待っていた人たちも駆け寄り、一人が携帯電話で救急車を呼んだ。
人々は子供の目を手で覆ったり、渚沙に声をかけたりした。
「お嬢ちゃん大丈夫かっ」
「お願いだっ、渚沙!!渚沙っ!!」
泣きながら必死の和人の呼びかけに、応えることはなかった。
すでに、息絶えていた。
20××年 8月 1日 21時 16分
渚沙は、死んだ。




