12話 無謀な賭け
喝采の中、舞台袖から舞台に現れた男。
深緑のローブを身にまとった男は、フードを深くかぶり、正体を見せようとしない。
ミアノの前まで歩き、そこで跪いた。
「俺と切っても切れない空気のような関係になってくれ」
その容姿から想像つかない陽気な声が、会場に響いた。
ミアノの手を取り、甲にキスを落とした。
「はあ!?空気のような関係とか馬鹿じゃないの?もっと勉強してきたほうがいいわよ。っていうか、絶対あんたとなんか結婚しないわ!」
ローブ男の手を思い切り振り払うと、ミアノは一歩後ずさった。
一生懸命考えたであろうプロポーズの言葉を馬鹿にされ、男は少したじろいだ。
300人はいるであろう見物客たちも、そのプロポーズはないだろうという否定的な意見を男に浴びせた。
団長は苦笑いを浮かべている。
「クソッ!お前ら、この俺を馬鹿にしたこと後悔させてやるっ!!」
ローブ男は小声で何かを唱えた。
すると、4匹のヴァイルは観客席に向かって駆けてきた。
残りの1匹はミアノに向かって歩みを進める。
「おっ、おい!戻れっ!!」
団長は鞭を打つが、ヴァイルが従う気配すらない。
どれも牙を剥き出し、それを伝ってよだれが地面に垂れる。
客は騒ぎながら出口に向かって走り逃げ出した。
だが何人かはヴァイルの餌食になった。
「なっ、なんなのよ・・・」
ジリジリと詰め寄ってくるヴァイルに、打つ手がないミアノ。
「待ってくれ!!仲間は食べない約束だっ!!」
団長はローブ男の肩をつかんだ。
その瞬間、男は団長の腹に肘打ちをし、よろけた隙に頭にカカト落としをくらわした。
大柄な団長は抵抗できず、倒れて気絶した。
「男に触れられると、吐き気がすんだよ」
団長につばを吐きかけた。
「ミアノに手を出すな!!」
舞台袖から誰かが駆けてきた。
ミアノをヴァイルから守るように、二者の間に立つ。
「う、ウェスト!?どうしてここに!?」
3年前より少したくましく見えた、懐かしい後ろ姿。
「ミアノ!!大丈夫!?っていうかあなたがウェストだったの!?」
アリシェも駆けつけた。
「何で知っている?」
「話はあとで!」
ウェストの横に立つアリシェ。
手を横に広げ、ミアノに触れさせまいと意思表示をした。
「とんだ客がやってきたものだな。」
4匹のヴァイルはローブ男の元に戻ってきた。
血に塗られた牙を、舌で舐めとっている。
「アリシェ、父さんと母さんは見つかった?!」
「っ・・・」
アリシェとウェストがその問いに口ごもっていると、代わりにローブ男が答えた。
「あっはっはっは!!こいつらがさっき美味しく食ったよ。なぁ?」
「ヴォォ・・・」
「・・・・あんた、何言って―― 」
高らかに笑った。
「嘘でしょ?・・・ねぇ、嘘だって言いなさいよ!!」
「はっはっは!その苦しみに歪んだ顔、そそられるな。お前が家族を逃がそうなんてしなければ、まだ生きていたのにな。俺も残念で仕方ない。」
ミアノは2人の間を割って入り、男の元に行こうとした。
「ミアノ!!落ち着くんだ!!」
彼女の腕をつかんで、ウェストがそれを阻止した。
「離してよっ!!あいつら、絶対許さないっ!!殺してやるんだから!!」
涙を流しながら、力いっぱいウェストを振りほどこうとする。
「ミアノ、ダメだ。俺たちじゃ、何もできないことは知ってるだろ?」
「でも手をこまねいて見てるなんてイヤよ!!この手であいつを・・・!!」
怒りのあまり、ミアノは我を失っていた。
だが現状は、ウェストの言う通りだってことはわかっていた。
ローブ男どころかヴァイルを倒せるはずがない。
拳でヴァイルを倒すなんて不可能に近かった。
「さて、どうしてくれようか。ただヴァイルに食わせる、というのも味気ない。ここは一つ、賭けをしないか。」
そう言うと、ヴァイルが剣呑みという芸を行うときの、本物の剣を2つ手にした。
「・・・賭け?」
「あぁ。だが、男と戦うなんてむさいことは御免だ。・・・そこの女、剣を取れ」
ローブ男はアリシェを指名した。
「・・・え?」
剣など扱ったことのないアリシェ。
「お前が勝てば、手をひいてやる。だが負けた時は、ミアノは俺の妻に、そしてお前とそこの男はこいつらの餌になる。どうだ?」
この勝負を受けなければ、どっちにしろヴァイルに殺される。
それなら受けて立たなくてはいけない。
そう思うけれど、本当は怖い。
人の人生が、命が自分にかかってるんだ。
その重みがアリシェにのしかかり、手足が震えだした。
「あたしが受けて立つわ!!あんたなんか、八つ裂きにしてやるっ!!」
ミアノが立候補するが、ローブ男はそれを拒否した。
「俺の大事な花嫁に傷を負わせたくないのでね。威勢がいいのは良いが、少々煩い」
また小声で何かを唱えた。
次の瞬間、ミアノは気を失ったのか、地面に倒れた。
「「ミアノっ!!」」
アリシェとウェストは倒れたミアノに寄り起こす。
「眠らせただけだ、しばらくすれば起きるだろう。さぁ、剣を取れ」
ローブ男はアリシェの足元に剣を投げた。
「君が戦う必要はない。ここは俺に任せて、2人で逃げるんだ。」
ウェストは2人で逃げることを提案した。
だが、その案は良策ではないことはわかっていた。
凶暴かつ素早いヴァイルに、どんな魔法を使うかわからない未知数のローブ男。
逃げられる方法なんて、ないのだ。
「・・・大丈夫、あたしに任せて」
精一杯の笑顔を見せると、アリシェは剣を拾った。
「アリシェ・・・」
両手で柄を握り、構えた。
『ミアノ、ウェストを助けるためにも、和人に会うためにも、あたしはここで負けるわけにはいかないんだから!!』
アリシェはローブ男に向かって構えながら歩みを進めた。
5匹のヴァイルはミアノ、ウェストを取り囲むように包囲した。
「さぁ、行くぞ!!」




