1話 幸せな時間
20××年 8月 1日
「久しぶりに会えて、楽しかった!」
日も暮れ、人通りのない静かな公園を歩きながら渚沙は微笑んだ。
手をつないでいるのは彼氏の和人。
「俺も楽しかったよ!今日はたくさん遊んだなっ」
「うんうん!ジェットコースターとか、コーヒーカップとか・・・」
渚沙は指折り数える。
「・・・・・プッ!」
いきなり吹き出す和人。
「どうしたの?」
「いや、ジェットコースターの写真に映ってた渚沙の顔、めちゃくちゃ面白かったなって思って!!」
大笑いする和人の脳裏には、まるでムンクの叫びとも言えような彼女の顔が浮かんでいる。
それは同じコースターの乗客も笑うほど、本当に酷いものだった。
「あ、あれは仕方ないじゃんっ!!だって・・」
必死に弁解しようとする渚沙。
そんな彼女を見つめ、和人はまた笑った。
2人は遠距離恋愛をしているため、数か月に1回しか会えない。
「和人といると、時間が過ぎるの早いや」
もっと一緒にいたい、そう思って手を強く握っても、それは叶わない。
2時間後、和人は深夜バスに乗って帰らなければならないから。
「・・・渚沙」
その瞬間、いきなり引き寄せられ何が起きたのかわからなかった。
気付けば、渚沙は和人に抱きしめられていた。
強く、強く。
「かっ・・・和人?」
サッカーボール1個分くらいの身長差。
一瞬の出来事に動揺した渚沙は、力を緩めた和人をそっと見上げる。
すると珍しく真顔で、彼女を見つめていた。
「俺が渚沙をずっと守るよ」
その言葉に頬を赤らめたのは言うまでもない。
普段明るくて笑顔を絶やさない彼が、まれに見せる顔。
嬉しさのあまり、恥ずかしくて彼の胸に顔を埋め、力の限りギュッと抱きしめた。
そして咄嗟に出たひと言。
「あ、あたしだって和人のこと守るからっ!!」
「お、お前・・・」
その返しに驚きながらも、フッ、と小さな笑みをこぼした。
渚沙の髪をわれものを扱うように優しく、そっと撫でる。
「ホント、好きだ・・・」
彼の甘い言葉に少し酔っていると、急に背を反らされたため、肌に触れていたぬくもりが消えた。
「あっ、和人。急に離れないで―――」
チュッ
言い終わる前に唇を塞がれた。
そして、それはすぐに離れた。
連なる出来事に対する驚きと嬉しさゆえに硬直した渚沙。
「・・・どうした?」
その言葉に我に返った。
「ど、どうしたって、だって和人がいきなりこんなことっ!!」
いつもの和人らしくない振る舞いに、驚くのは当然だ。
「こういう俺、嫌い?」
「だっ!大好きっ!!」
彼を見つめながら答えた彼女の返答は早かった。
2人して笑った。
「結婚、しような?」
なんだか今日は、和人に良い意味で振り回されてる気がした渚沙であった。
「もちろんっ!」
再び手をつないだ2人は、駅に向かって歩き始めた。
この後、どんなことが起きるかも知らずに。




