玲央と樹と陽葵(前編)
「気遣わせちゃったね」
陽葵が小さな声で溢す。
「……メイドさんたちも、いつの間にか居なくなってるし」
彼女は周囲を見回した。机の側には、ジュースの瓶が乗せられたワゴンが置かれているが、その横に居た人々は居なくなっている。
「その、えっと……私、ずっと玲央くんに聞きたかったことがあって。聞いても、いいかな」
「……構わないが、何だ」
玲央が淡々とした声を出す。陽葵はグラスを両手で握って、目線を落とした。
「アルトがあなたと戦った時、何があったの? ……殺し合いを、したんだよね?」
玲央はその言葉に目を細めて、樹と目を合わせた。樹が笑って、口を開く。
「そうだね。どちらかが死ぬ、あれはそういう戦いだった。僕たちは4人。魔王側は、彼を含めて5人いた。もっとも部下の数まで考えると、有利だったのは彼の方だ。何しろ、真正面から城に踏み込んだんだからね」
「その通りだ」
玲央が真顔で、樹の言葉を肯定する。
「聖剣があっても、厳しい勝負だった。俺は……我は勝てると思っていた。だが、最終的には追い詰められた。そこで」
「『何のために戦うのか』と、君は聞いたね。僕は『君に話す必要はない』と答えたけど」
「我はその理由を知りたいと思いながら死んだ。……だから今は満足している。アルトゥールの目的を知り、その気持ちも理解したからな」
2人は交互に、話を進める。そして同時に、陽葵の方に視線を向けた。
「……ねえ陽葵。君と僕たちの状況は違うんだ。僕たちは初めから覚悟していた。でも、君は何も知らないまま、殺された。僕たちは力を尽くして、自分のために戦った。君は戦うこともできず、無抵抗のまま死んだ。……君が辛いと思うのは当然だ。苦しみも、悔しさもあると思う。ごめんね、守りきれなくて」
硬い声音で、樹が告げる。陽葵は瞳を揺らめかせた。
「……違うの。アルトを責めてるわけじゃなくて。ただ、私も2人みたいに思えたら良かったなって……」
「それが不可能だと、樹は言っているんだろう。……俺もそいつと同じ意見だ。お前は、納得のいく死に方が出来なかったのだろう。それは事実だ」
玲央が低い声で続ける。その言葉に、陽葵はコップを握る手の力を強めた。
「……それは、もういいの。でも、私にはこの記憶があるから。樹くんも玲央くんも、どっちも人気があるでしょう? だから、こんな私に付き合っても、良いことなんてないのかなって……」
「え? 今の時点で、僕は十分幸せだけど」
樹が即座に口を挟む。玲央も続けて言葉を発した。
「俺も特に不満はない。やりたいことはできている」




