多めの気遣い
「まあ、これは仕方がないことだと思うが。陽葵の強さに惚れ直したんだろう。その気持ちは分からないでもない。俺も可愛らしいと思ったからな」
「……春奈」
樹が厳しい表情を浮かべて妹の言葉を遮る。彼女は笑みを深めて続けた。
「心配するな。俺もメルも、お前の初恋を横から奪うほど恩知らずじゃない。そうだろう、メル?」
「はあ? アタシは別に、陽葵がそうしたいって言うなら構わないけど。……まあでも、流石にこの2人と競う気はないかな。それに陽葵は、今も昔も女の子だから……ま、恋をするならそっちよね。アタシやアンタとは違うわ」
春奈の問いに、夏穂は楽しそうに笑いながら答えた。そして少女は笑みを深める。
「陽葵はそれでいいのよ。アタシたちみたいにはならないで」
その笑みが、どこか寂しげに見えて。陽葵は心配そうな顔をする。その側で、渚が柔らかな笑顔を見せた。
「うんうん、若いうちは大いに悩みなさいな。行き詰まっちゃったなら、私で良ければ相談に乗るわよ。ちーちゃんは、こういう話はダメだから」
「……悪かったな」
不貞腐れたような顔で、千秋が呟く。
「つーわけだ、玲央。なんかあったら、アタシじゃなくて渚を頼れ」
その言葉に、玲央は何か言いたげな顔をして、けれど言葉にはしなかった。その代わりに、彼は陽葵の方を見て口を開く。
「……まあ、俺にも勝ち目があるのなら、それ相応の努力はしよう」
彼の言葉に、陽葵は気恥ずかしくなって目線を逸らす。そんな彼女を見て、樹は目を細めた。
(……あーあ、本当。厄介な相手に、出会っちゃったな。でも、玲央のおかげで、彼女が前を向けるようになったから……これで良かったのかもしれない)
ため息を1つ。それで意識を切り替える。そして樹は、ジュースを飲み干して告げた。
「ねえ、次は何をして遊ぼうか。それともここでゆっくりする? 僕は別に、どっちでもいいよ。君がやりたいことをしよう」
真っ直ぐ、陽葵を見つめて。彼は柔らかな声音で告げる。陽葵は彼の言葉に顔を上げて、周囲を見た。
「……私はもうちょっとだけ、休みたいかな。でも、別に付き合わなくてもいいよ」
「……そうねえ。じゃあアタシは、もう1回泳いでこようっと」
彼女と目が合った夏穂が、からかうような笑みを浮かべて席を立つ。春奈も彼女と一緒に動いた。千秋はますます渋い表情になって、渚の手を引く。
「……アタシたちは一応保護者だし、怪我しないようにあっちを見るから」
その言葉を残して、彼女もまた去っていった。そして気づけば、その場には陽葵と樹と玲央の、3人だけが残された。




