一休み(後編)
「いやー、にしてもクソボケだったわね、2人とも」
渚と千秋が、離れた場所で内緒話をしていたのと同じ頃。夏穂は呆れ顔で呟いた。
「陽葵が目に入るたびに固まって、ずーっと胸を見てるんだから。あれじゃあ勝負にならないわよ」
「し、仕方ないよ。男の子だし……」
陽葵は苦笑を浮かべながら、コップに口をつける。彼女の両隣に陣取っている樹と玲央は、揃って目を逸らした。そんな彼らに、夏穂はジト目を向けている。
「まあそうね。男の子だから確かに、好きな子の水着姿なんて目の毒か。アンタたち、生前もそういうこととは無縁だったのよね?」
「……まあ、アイに怖がられたくなかったからね。他の子を勘違いさせるのも嫌だったし」
「我には必要なかったな。配下には、精気を糧とする種族が居たが……」
2人が揃って、言いにくそうにしながら答える。陽葵は困り顔になった。
「……私も、そういうことは苦手だなあ。好きな人ができたら、変わるのかもしれないけど……」
「いいよ。陽葵は、そのままで。第一、君が選ぶとしたら僕か彼だろ。無理強いはしないし、君が前に進めるまで待つと約束する。だから本当に、君は気にしないでくれ」
樹が真顔になって、即座に口を挟む。その向かい側で、玲央も真剣な顔で頷いた。夏穂の目つきが、更に鋭くなる。
「あのねえ。アンタたちは、陽葵を何だと思ってるの。本当にこの子の意志を尊重するっていうのなら、どっちも選ばないことも受け入れなさいよ」
「……ありがとう、夏穂。でもね、大丈夫。……私はちゃんと、選ぶから」
友人の言葉に、陽葵は少し嬉しそうにしながら返す。
「アルトのことが好きだった私は、今も私の中にいるの。怖がって、前に進めなくなってたけど、玲央くんが背中を押してくれた。おかげで私は踏み出せた。……もう、王女様のことも怖くない。そうなれたのは、2人が居てくれたから。だから、そのお返しをしたいと思った。1番のお返しは、私が心を決めること。だから私は、必ず選ぶよ。約束する」
親友の目を見つめて、彼女はハッキリとした声で言いきる。夏穂はその言葉を聞いて、諦めたように息を吐いた。
「……ったく。アンタはホントに甘いんだから」
そして彼女は、悪戯な笑みを浮かべて続ける。
「良かったわね、アンタたち。どっちかは報われるみたいで」
樹と玲央は何も言わない。陽葵の眩しさに、言葉を失って固まっている。そこに、渚が千秋の手を引きながら近づいてきた。
「待たせちゃったかしら……って、あら? 樹くんたちはどうしたの?」
「どうもしてない。いつもの病気が出ただけだ」
一連の流れを見守っていた春奈が、渚の質問に淡々と言葉を返す。そして彼女は、薄笑いを浮かべながら口を開いた。




