一休み(中編)
「樹くんって色んな意味で、住んでる世界が違うのね」
離れた場所で、彼らの会話を聞いていた渚が呟く。
「陽葵にこんなお友達ができるなんて、想像したこともなかったわ。ちーちゃんの弟くんに気に入られたのも、ビックリしたけど……」
「そんなの、アタシだって意外だったっての」
千秋が深々とため息をつく。彼女は弟の方を見ながら続けた。
「玲央の奴が、まさか恋なんてするとはな。……はあ、どうするか……」
複雑な表情で頭を掻いている親友を見て、渚は苦笑を浮かべた。
「ちーちゃんは、言い寄ってくる男の子がいても、殴り飛ばしていたものね」
「たりめーだろ。アタシは、自分より弱い男のものにはなんねーよ。……でも、陽葵はアタシじゃないからな」
樹の隣に座った少女は、ジュースを勢いよく飲み干して息を吐く。空になったカップに、メイドがすかさずおかわりを注いだ。その1連の流れを少し離れた場所から観察しながら、千秋は目を細めて言う。
「別にあいつも、ああいうのが好きなわけじゃないだろ。だけどあいつは、基本的には拒まない」
「ええそうね。あの子は人の善意を、素直に受け取るところがあるから」
「悪かったな、素直じゃなくて。……でも、それだけで樹を選ぶような奴でもないだろ、あいつ。渚はどっちが良いと思う?」
「……私?」
問われた女性は、キョトンとした顔でまばたきをする。
「私は干渉する気はないわ。これはあの子の問題だもの」
「けどよ、結婚したら義理の弟になるんだぞ。少しはねえのか、希望とか」
「あら。そういう意味では、どちらも好きよ。……あの子と同じ。樹くんが、何でも持っているとしても……それだけで、彼を選ぶべきだなんて言わないわ」
ニッコリと微笑んで、渚が断言する。千秋はそれを見て、真剣な顔になった。
「まあ、お前はそう言うと思ったよ。でも、大抵の奴はそうじゃない。……やっぱ勝ち目がねえのかなあ」
「あら、珍しいわね。あなたがそんなに、弱気になるなんて」
「そりゃあ、玲央はアタシが育てたからな。喧嘩では負けねえと思ってるよ。けどこれ、そういう勝負じゃねえんだろ?」
「そうだけど、諦めるのは早いと思うわ。だってほら、陽葵も玲央くんを気にしてる。あの2人、案外いい感じなんじゃない?」
その言葉に、千秋は不満そうな顔で黙り込む。渚はそれを見て、困ったような表情になった。
「……ちーちゃんったら、もう」
友人が、恋愛ごとにだけは奥手で照れ屋であることは、彼女だけが知っている秘密だ。そして。
「悩んでいないで、私たちも混ざりましょう? ほら、早く」
こうなってしまった友人を引っ張るのも、また彼女の役割だった。




