一休み(前編)
少しだけ積極的になった陽葵が、水しぶきを立てながらはしゃぎまわる。樹と玲央は、彼女を見ているだけで満たされた。自然と、2人の動きが鈍くなる。結局、また決着はつかなかった。それでも2人は、満足そうに笑っている。
「あー、楽しかった。……少し休もうか。鈴生。休憩場所を、作ってくれる?」
樹がニッコリと笑って、入り口の方に視線を向ける。そこには誰もいないように見えた。けれど、しばらくして。物陰から女性が現れる。
「……そう仰ると思って、既に用意しています」
彼女は振り返って、複数人のメイドを呼んだ。呼ばれた女性たちは手際良く、プールサイドに簡易的な椅子と机を置く。それを見て、樹は目を細めた。
「……ありがとう。流石だね」
休憩場所の準備を終えたメイドたちが、その言葉に揃って頭を下げる。鈴生はそのまま続けた。
「お飲み物は、何がよろしいですか? 大抵の物は揃っていますが」
「そんなのオレンジジュースとか、その程度でいいでしょ。……いいよね?」
夏穂がプールから上がりながらそう言って、樹の方に視線を向ける。彼は笑顔で頷いた。
「そうだね。僕もそれでいいと思う」
その言葉を聞いて、メイドたちが動き出す。一糸乱れぬその姿に、陽葵は感嘆の声を漏らした。
「……すごいね。この人たちって、いつもこうなの?」
「まあね。皆、ベテランだから。ほら、若い子は1人もいないでしょ?」
樹は笑顔でプールから出て、陽葵の手を取って彼女を引き上げながら告げる。その言葉に、陽葵は改めてメイドたちを見た。
「……確かにそうかも。そうか、何でもできる人しかいないんだ」
「にしてもどうかと思うけどな。第一、他人に世話をさせるなんて、若い頃からそんなことを覚えさせてどうすんだよ」
千秋が不機嫌そうな顔をする。樹は笑顔のまま、メイドから受け取ったタオルで体を拭いて、椅子に座った。
「そうは言っても、この豪邸を僕だけで管理することはできませんから。人に任せられることは、やってもらってもいいでしょう? 僕も、何もできないわけではありませんが……彼女たちはプロなので、僕より仕事ができるんです」
「そうですね。樹様には、他にやるべきことがありますので」
彼の言葉に、オレンジジュースの瓶を持って入ってきた鈴生が、淡々とした声で同意する。彼女はコップを机に置いて、ジュースを注ぎながら続けた。
「リモートワーク、でしたか。離れていても、お父様に任せられた支社の決済は、樹様のお仕事です。もっともこの方は優秀すぎて、すぐに終わらせてしまいましたが」




