ボールゲーム(後編)
(……私って、ワガママなのかな)
陽葵は振り返って、後ろを見る。後方では、樹と玲央が向かい合っていた。どちらも、彼女のことを本気で想ってくれている。それは彼女にも伝わっている。
(すぐに選べないのは、悪いことなの? でも……)
玲央は3年後まで待つと約束した。樹も同じだ。2人とも、彼女の意志を何よりも優先してくれた。
(どっちも優しい、から)
陽葵は胸の前で片手を握って、目を閉じた。そしてゆっくりと、深呼吸をする。――理解している。2人は、誰にでも優しいわけではないと。
(私のこと、考えてくれているからだ。……私も少しでもいいから、返したい)
目を開けて、前を見据える。そして彼女は走り込んだ。2人の間に割り込んで、ボールを奪う。
「……玲央くん、パス!」
ニッコリと笑って、ボールを投げる。玲央は目を見開いて、投げられたボールを受け取ったまま動きを止めた。樹も何も言わず、妙な沈黙がその場に流れる。
「こら樹。何ボーっとしてんの。さっさと動く!」
「そうだぞ、玲央。今は同点なんだ。陽葵に見惚れていないで、さっさとゴールに向え」
その空気を壊したのは、夏穂と春奈だった。彼女たちは動かなくなったチームリーダーの体を思いっきり叩いて、ついでに春奈は玲央からボールを取り上げる。そしてバシャバシャと水しぶきを上げながら、2人は並んで泳いでいった。残された3人は、揃って顔を見合わせる。
「……ああ、ビックリした。本当に、君の行動は読めないな」
苦笑を浮かべて、樹が呟く。彼は陽葵の目を見て、笑みを深めた。
「でも、迷いが晴れたようで何よりだ。結論は出た?」
「……うん。といっても、どっちかを選んだわけじゃないけど」
陽葵は真っ直ぐに前を見る。樹と玲央を見据えて。
「私はもっと、頑張るんだ。それで、2人に相応しい女の子になる」
ハッキリとした声で、宣言した。そして彼女は前を向く。
「待っててね。私、2人の隣に並んでも、何も言われないようになるから」
その言葉を残して、彼女は振り返らずに進んでいく。その背を見つめたまま、玲央が小声で呟いた。
「……いや、待て。今のままでも、十分なんだが……」
「無理だよ玲央。陽葵は、こうと決めると、人の話を聞かなくなるから」
諦めたような、けれどどこか楽しそうな笑顔で樹が告げる。彼は柔らかな声音のままで、続けた。
「まあ、でも……僕と君が側にいれば、余計な虫は近寄れないか。協力してくれるよね?」
有無を言わせないその言葉に、玲央は無言で頷く。彼も樹と、全く同じ思いを抱えていたから。そう。――恋敵は、1人で十分だと。




