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ボールゲーム(中編)

「……別に、何も……」


「だが、先ほどまで(いつき)と話していただろう。あの男に、何か言われたのか?」


口ごもる陽葵(ひまり)に、玲央(れお)が鋭い眼差しを向ける。彼は低い声で続けた。


「アレはお前が思うより、ずっと勝手な男だ。もし、耐えきれないと感じたのなら、その時は俺に言え。俺は必ずお前を守る」


「……それは」


陽葵が目線を上げて、玲央を見つめる。その目には、疑念が()められていた。


「本気、ですか?」


「無論だ。……ずっと不思議だった。他人に何の興味も持たぬ男が、何故勇者となったのか。その理由が、女で、しかも手に入れられなかったとは思わなかったが……お前と出会って、よく分かった。確かに、こんな女であれば欲しくなる。俺だけを見てほしい、と……」


水に濡れた手が、陽葵の頬に添えられる。彼女はそれを横目に見て、不思議そうな顔をした。


「でも、それっておかしくないですか? 私、顔も体も、性格だってごく普通の女の子ですよ。幼馴染だった頃から、一緒にいてくれた彼はともかく……あなたは違う。もっと綺麗な女の子を、いくらでも見てきたでしょう?」


「……ふむ」


玲央が目を細める。彼は考え込むような顔で呟いた。


「それは、そうだな。何も、女はお前だけではない、が」


薄笑いを浮かべて、彼は陽葵の目を見返す。


「お前と話すのが、1番楽しい。俺は魔王だった頃から、部下はいても対等に話せる相手など居なかった。今もそうだ。俺から目を()らさず、思ったことを直接ぶつけてくるような女はお前だけだ。樹には、力がある。単純な強さだけではない。この世界で、奴が持っていない物などないだろう。それでも、お前は(なび)かない。心が(ともな)っていないから……などと言ってくれるなよ。奴がお前を愛して、全てを捧げていることは、お前も分かっているだろう。分かった上で、奴を拒絶し続けている。お前自身の意志で。そんな女は他にいない。……そうは思わないか?」


楽しそうに、彼が語る。その言葉に、陽葵は何も言えなくなった。言葉に詰まる彼女を見て、彼は更に笑みを深める。


「佐藤陽葵。お前は自分を、どこにでもいる平凡な女だと思っているのかもしれないが……俺と樹にとっては、そうではない。誰よりも強いお前が、お前自身の意志で側に来てくれるのなら、それは何より嬉しいことだ。よく覚えておけ、陽葵。お前は俺に、この感情を自覚させた。樹と同じく、俺もお前を諦めはしない。絶対に」


その強引な宣言は、陽葵の心に突き刺さった。樹が向けてくる感情と同じ温度、同じ重さで彼は告げる。そして、止まったままの陽葵の横をすり抜けて、去っていった。

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