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屋内プール(後編)

「何、記憶がないことは、悪いことばかりではないとも」


そう言って、春奈(はるな)は友人の手を引いた。目前では、(いつき)陽葵(ひまり)と笑いながら話をしている。


「俺たちはこれから、また新しく始めればいい。幸いにも、ここは前より平和な国だ。もうあいつが、英雄になる必要もない」


「……そうだな」


樹がビーチボールに空気を入れて、膨らませる。それを持って、彼は口を開いた。


「で、チーム分けはどうするの?」


「お前と玲央(れお)は当然別だろ。……ま、ジャンケンで勝った方からチームメイトを選んでいけばいいんじゃないか?」


「そうだね、じゃあ」


千秋(ちあき)の言葉に、樹と玲央が拳を握る。2人は何度もあいこを繰り返して、その末にようやく玲央が勝った。彼はニヤリと笑って、陽葵の方を見る。


「よし。俺は当然、陽葵を貰う」


「……えっ?! 私、運動とか全然できないよ?!」


彼女は目を見開いて、声を上げた。それを見て、玲央は楽しそうな顔をする。


「構わない。お前がいるだけで百人力だ」


「……まあ、それはそうだね。僕も勝ったら、君を選ぼうと思っていたし」


樹が少し、悔しそうに呟く。そこに泳いできた夏穂(かほ)は、2人に呆れたような視線を向けた。


「アンタたち、ホント陽葵しか見てないわよね。いいから早く、次を指名しなさいよ」


「はいはい。……じゃあ、千秋さん。お願いします」


「アタシか? いいぜ」


彼女の言葉に頷いて、樹は千秋に声をかける。それを見て、玲央は少し考えた後に口を開いた。


「……ふむ。では、俺は渚さんで」


「あら、私でいいの? 私もそんなに、運動ができる方じゃないけど」


「ええ。……陽葵のお姉さん、ですから」


彼の声。そこに昔を懐かしむような、そんな感情が含まれていることに、樹だけが気がついた。その上で、彼は特に言及もせず微笑む。


「じゃあ、そうだね……最後に選ぶのは、夏穂にしようかな。春奈とはいつも一緒にいるから、たまには気分を変えてみよう」


「……何それ。ちょっと適当すぎじゃない?」


夏穂がそう言ってため息をつく。春奈は明るい笑みを見せた。


「まあ、チーム分けなどそんなものだろう。所詮(しょせん)は遊びのようなものだ」


「はあ? 遊びでも、真剣にやらなきゃ楽しくないでしょ。第一、樹と玲央が戦うのよ。アタシたちも、気を抜くわけにはいかないでしょ」


夏穂が彼女にジト目を向ける。そして2つのチームは、プール内を即席のコートとして、両側に分かれて向かい合った。


「んじゃ、負けた方には罰ゲームってことで! 始めるぞー!」


そう言って、千秋がボールを高く投げる。こうして、即席の試合が始まった。

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