屋内プール(前編)
「ほー、だからアンタだったのかね。ま、何でもいいか。とにかく早く着替えて行こうぜ」
そう言いながら、千秋は2つ隣のクローゼットからビキニタイプの水着を取り出す。陽葵も気を取り直して、薄い水色のワンピースタイプの水着を掴んだ。渚がそれを見て笑みを深める。
「あら、それでいいの?」
「……うん」
「こういう時くらい、ちょっと冒険してもいいのに」
そんな話をしながら、彼女も陽葵の隣で着替える。そして3人は、揃ってプールの方に向かった。千秋が勢いよくドアを開けて、そのままスタスタと歩いていく。その後ろで、陽葵は姉の後ろに隠れながら出ていった。広いタイル張りの床と、壁際に並ぶシャワー室。そして部屋の中央にある、大きなプールが目に入る。そこには既に、樹と玲央も入っていた。
「こら、何やってんの。アンタは今日の主役でしょ。そんなところで隠れてないで、早くこっちに来なさいよ」
プールサイドから顔を出して、夏穂が呆れ顔で言う。その言葉に、樹と玲央は動きを止めて、同時に陽葵の方を見た。
「……え、えっと……そんなに見られると、緊張するんだけど……」
陽葵は姉の背にしがみついたまま、顔を赤くして呟く。樹が柔らかく笑って、プールから上がった。そしてそのまま陽葵の側に歩み寄って、彼は彼女に向かって手を伸ばす。
「大丈夫。君はいつでも魅力的だよ」
その言葉に、陽葵は無言で頷いて彼の手を取った。ゆっくりと歩き出した彼女を、彼は眩しそうに見つめる。
「可愛いよ、陽葵。その水着も、似合ってる」
「……う」
陽葵は真っ赤に染まった表情のまま固まる。玲央の無言の視線が、突き刺さるような気さえして。彼女は動けなくなってしまった。その肩を抱いて、樹が囁く。
「自信を持って、胸を張って。僕は、いつもと違う君のことも大好きだから。……多分、彼もね」
彼の言葉を耳にして、彼女はぎこちない様子で一歩ずつ足を進める。その目の前で、千秋は弟の肩を容赦なく小突いた。
「おいコラ。あの優男に先を越されてんぞ。見惚れてねえで、思ったことを伝えてこい」
玲央が眉間にシワを寄せる。そして、少し躊躇はしたものの、彼も水の中から上がった。歩み寄る陽葵を、正面から見つめて。彼はハッキリとした口調で言葉を発した。
「……綺麗だ、陽葵。とても。……すまない、こういうことには慣れていないが。それでも俺の目には、これまで見てきたどの女よりも美しく見える」
「う、わ、分かったから……! もう何も言わないで! 死ぬほど恥ずかしくなる……!」
陽葵が上ずった声で返す。その言葉を聞いて、彼は少し困ったような表情で口を閉じた。




