着換え(前編)
「……分かってるよ」
樹の言葉を聞きながら、陽葵は彼女たちに連れて行かれる。千秋は渋い表情で、渚は苦笑を浮かべてその後に付いていった。部屋を出て、渚が妹に声をかける。
「ねえ陽葵。どんな水着にするの?」
「どうって、そもそも水着の種類なんて言われても、私スクール水着くらいしか思いつかないけど……」
「じゃあ、色々試してみましょうか。意外とビキニとか似合うかも」
「えー……別に何でもいいんじゃない」
「ダメよ陽葵! あの子たちが1番楽しみにしてるのは、あなたの水着なんだから。ちゃんと似合うのを選ばなきゃ」
姉妹がそんな会話をしながら、廊下の奥まで移動する。春奈は最奥の左隅にある扉を開けて、後ろにいた人々を部屋に招き入れた。
「ここが着替える場所だ。奥の扉は、そのままプールに繋がっている。水着はクローゼットに入っているから、好きなものを着てくれ。私はもう決まっているから、先に着替えてプールに行く」
そう言って、彼女はクローゼットから競泳水着を取り出した。その横に並んで、夏穂はショートパンツ型の水着を手に取る。
「アタシも大体決めてるし、早く泳ぎたいから先行くね。陽葵は渚さんがいれば大丈夫でしょ」
「……え。夏穂、一緒に選んでくれないの?」
その言葉に、陽葵は悲しそうな顔をする。夏穂は目を細めて、水着を持ったまま彼女に近づいた。
「まあ、昔ならともかく、今は男としての記憶もあるし。なんつーか、流石にちょっと気まずいというか。まあ、アンタは何を着てても可愛いだろうから、好きなのを選べばいいと思うよ」
小さな声で、夏穂は親友にだけ聞こえるように話す。陽葵は少し寂しそうだったが、それでも何とか納得したようだった。
「……そっか。じゃあ、後でね」
「うん、楽しみにしてる」
その言葉を残して、夏穂も先に着替える。陽葵は彼女を横目に見ながら、姉に連れられてクローゼットの前に立った。
「色々あるわね。でも、ワンピースタイプの物が1番多いみたい。しかも全部パステルカラーだし、流石ね、樹くん。陽葵の趣味が分かってるわ」
ズラリと並べられた水着を一通り見て、渚が呟く。陽葵は顔を赤くして俯いた。千秋が横から手を伸ばして、壁に並んだクローゼットの扉を開けていく。
「確かにビキニは少ないか。露出も控えめなやつが多いな」
「そうそう、陽葵が普段買うのもそういう服よ。……もしかして調べてたりしたのかしら?」
「流石にそれはねえだろ。……ねえよな?」
千秋の言葉に、陽葵は慌てて頷く。以前から、彼女は淡い色が好きだった。樹はそれを覚えていただけなのだろうと思いながら、少女は仔細をぼかして告げた。
「えっと、多分、イメージかな? そういう子が好きだったんだと思う」




