樹の妹(後編)
「俺は敵だとも。少なくとも、樹にとっては。だが、ここでは競い合う相手であっても、殺す必要はないからな。それに、そんなことをすれば陽葵に嫌われてしまう。俺は樹に勝った上で、彼女を手に入れたいと思っているだけだ」
「なるほど、それなら俺がわざわざ口を挟む必要はないな」
玲央の返答を聞いて、春奈は納得したように頷く。そして彼女は踵を返して、広間から出ていこうとした。その背に向かって、樹が声をかける。
「春奈。後で、君も一緒に遊ぼうね」
少女は振り返らず、そのまま立ち去った。けれど樹は満足げに微笑んで続ける。
「大丈夫だよ。あの子はああ見えて、真面目で優しい子だから」
「……それはまあ、分からなくはないですけど……」
ワゴンに乗せられて、デザートのお皿が運ばれてくる。それを見ながら、渚は複雑な顔で呟いた。
「やっぱり、私たちはご迷惑だったのではないかしら。子供たちだけの方が、話も早く進んだでしょうし」
「別に、そんなことないよ。ねえ、樹くん?」
「そうですね。……僕たちには事情がありますが、今は関係ないことです。それに、お2人も全くの無関係というわけではありません。少なくとも僕は、お呼びできて良かったと思っていますよ」
姉の言葉を、陽葵が笑って否定する。樹も彼女に同意して、話を続けた。夏穂が目を細めて話に入ってくる。
「そーそー。それにここ、6人居ても席が半分も埋まってないじゃない。4人だったら、きっともっと寂しかったよ。数が多いに越したことはないでしょ」
その言葉に、渚は周囲を見回した。大きな部屋と、大きな机。その片隅に、固まって座っている自分たちを改めて認識して。彼女は苦笑を浮かべた。
「……確かにそうね。賑やかなのは良いことだわ」
その言葉の後に、6人は無言でデザートを食べる。渚が最後にスプーンを置いて、梶ヶ原は無言で食器を下げ始めた。
「あ、あの、ありがとうございます」
陽葵が彼女に向かって頭を下げる。彼女は真顔で言葉を返した。
「お気になさらず。私は仕事をしているだけですから」
そう言う間も、彼女は手を休めない。やがて、ワゴンにお皿が戻されて、彼女はそれを押しながら厨房に戻っていく。陽葵たちは彼女の後から少し距離を空けて付いていって、厨房にいた料理人に昼食の感想を伝えた。料理人はニッコリと笑って、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。楽しんでいただけたようで、何よりです」
その言葉を聞いた後に、陽葵たちは邪魔にならないように扉を閉めて、一斉に樹の方を見た。




