樹の妹(中編)
「そうでもない。黙っていても、向こうが勝手に解釈して、話を進めてくれるからな。まあそのせいで、深窓の令嬢だと思われているが」
「とんだ詐欺じゃねーか、それ」
春奈が真顔で返した言葉に、夏穂は渋い顔をする。少女はかつての友人を見上げて、淡々とした声で話を続けた。
「しかしな、メルヴィン。ならば俺はどうすればいいと言うんだ。筋肉をつけたいというのも、女としてはあまり推奨されないことなんだろう?」
「いや、そういうのは今は逆にねえだろ。好きなようにしろよ。……どっちかというと、お前が気にするべきなのは、言葉づかいじゃねえか? オレが言えたことでもねえけど」
「……むう」
少女が頬を膨らませる。
「お前も、樹と同じことを言うんだな。分かっているとも。外では俺も気をつけている。それでもたまに失敗するが。……しかしな、ここは俺の家でもあるんだ。しかも色々と言ってくる両親が居ない。それなら好きに喋ってもいいだろう。その方が気が楽だしな」
「……まあ、それはそうか」
夏穂は表情を和らげて、置きっぱなしになっていたナイフとフォークを取った。
「アンタのことをいちいち気にしてたら、いつまで経っても食事が進まないし?」
ニカリと笑って、彼女はナイフで肉を切る。その横から、既に食べ終えていた陽葵が遠慮がちに声をかけた。
「ええと、あの。春奈さん……? 初めまして、私は佐藤陽葵です」
「これはどうも。貴女のことは樹から聞いているので、畏まる必要はないですよ。貴女を見つけた日の彼は、本当に嬉しそうだったので、俺も良かったと思ったものです。もっとも、そこに彼……来間玲央さん、でしたっけ。その人までいるとは、思いもしなかったのですが」
彼女の言葉に、千秋の目が据わる。彼女は低い声で言った。
「……話が全然分かんねえが、お前といい樹といい、玲央になんか恨みでもあんのか?」
「恨みはありません。憎しみも。ただ、対立しなければならなかっただけです。状況が、友誼を結ぶことを許さなかった。俺も樹も、そして彼女も。そうするしかなかったから、旅立ったのです。そしてその日々は、過酷でしたが楽しい思い出でもありました。樹が先に居なくなってしまった時、俺たちが揃って後を追うことを決めたのも、それ故です。だから俺は、彼がここに来ると聞いた時、一目会いたいと思いました。彼が何を望み、どうしたいと思っているのか、その口から直に聞きたかったからです」
春奈が真っ直ぐな瞳で玲央を見つめる。玲央は目を細めて口を開いた。




