昼食はフルコース(前編)
樹は程なくして戻ってきた。その少し後に、中年の女性がサービスワゴンに料理を乗せて運んでくる。
「どうぞ。前菜の、エビとアスパラのサラダです」
「……あ、ありがとうございます。えっと、あなたは……」
「私ですか? 私はこのお屋敷のメイド長を勤めさせていただいております、鈴生と申します。本日は皆様のお邪魔にならないように、こうしてお手伝いをするだけですが」
陽葵の問いを受けて、女性は丁寧に頭を下げながら答える。そんな彼女を見ながら、樹が苦笑を浮かべて補足した。
「メイドというと、誤解されるかもしれないけど……家事手伝いっていう、ちゃんとした仕事だよ。日本だとあまり一般的じゃないけど。ちゃんと休み時間もあるし、お給金も僕の口座から引き落としてるから気にしないで」
「……なんかアンタって、ホントにいいとこのお坊ちゃんだったのね」
夏穂がしみじみとした様子で呟く。樹は困ったような顔をした。
「……まあ、会社経営じゃなくて株で稼いでいるから、お父さんには苦い顔をされてるけどね。それでもあの人に頼らずに、費用を全部負担している分、ここでは僕の好きにできる。だから本当に遠慮しないで、自由にのびのび過ごしてほしいな。この家、Wi-Fiも通ってるし」
「……マジで?! ……マジだわ……お前、これいくらかけてんの……?」
夏穂が思わずスマホを取り出して確認する。そして彼女は、信じられないものを見るような目で樹を見た。彼はニッコリと笑って返す。
「まあ、そこは、ほら。言わぬが花ってやつじゃないかな?」
その言葉を聞いて、玲央と千秋が夏穂と同じ表情になる。陽葵は迷いながら口を開いた。
「……えっと、その、樹くんはそれでいいの? 迷惑だとは思わない?」
「もちろん。君が……君たちが楽しんでくれるなら、僕にとってはそれだけでお釣りがくる。ほら、友情はお金で買えないっていうだろう? まあ、それは人によると思うけど……君たちはこれを見ても、僕への態度を変えることはない。僕はそのことを知っていたから、君たちをここへ招いたんだ」
一点の曇りもない笑顔で、彼は告げる。その返答を聞いて、玲央は深いため息をついた。
「……そうか。お前はそういう男だったな」
樹は他人に期待しない。優しいのは見た目だけだ。彼の心に住めるのは、今も昔もたった1人しかいない。そしてその1人は、切り替えて食事を楽しんでいる。そんな彼女の姿を、他の4人は大人しく見習うことにした。
「……よし、じゃあ好きなようにさせてもらうか。つーわけで聞くけど、お前、妹がいるんだろ? なんでここに来てねえんだよ」




