樹の家にご招待(後編)
「お姉ちゃん、疲れてるのかな」
陽葵が心配そうな顔をする。千秋は隣りにいる友人の寝顔を見つめた。
「……心配性な奴だからな。アンタのことを考えて、昨日眠れなかったとかじゃねえか?」
「そうなの? 私、気にしないでって言ったのに……」
「仕方ねえだろ、そういう性分なんだからよ。アタシもかすり傷だっつってんのに、無理やり保健室に連れてかれたりしたし。まあ、それが渚の良いところでもあるんだが……」
「……姉さんは、陽葵のお姉さんのことをよく知っているんですね」
渋い顔をする姉を見上げて、玲央が淡々とした声音で言う。千秋は弟の言葉に、遠くを見るような目で返した。
「何だかんだで、ガキの頃からの付き合いだからな。今通ってる大学まで一緒だし、まあ腐れ縁って奴だよ」
彼女の言葉が終わると同時に、黒い車は山を登りきって、大きな屋敷の前で止まった。運転手が車から下りて門を開け、再び車に戻ってくる。
「……ほんと、冗談みたいな広さよね。維持費だけでも、とんでもない額になるんじゃない?」
夏穂が呆れ顔で口を開く。樹は苦笑を浮かべていた。
「僕としては、もう少し控えめにしてほしかったんだけどね。父さんの見栄でこうなったんだ。とはいえその分何でもあるし、何でもできる。こうやってお客さんを招くことには、それなりに向いていると言えるかな」
彼がそう言った直後に、両開きの大きなドアの前で車が止められた。千秋が渚を揺り起こす。樹は5人を邸内に招き入れて、大広間へと案内した。広々とした室内を、シャンデリアの明かりが照らしている。部屋の中央には、大きな長机が置かれていた。
「ちょっと過剰じゃない?」
夏穂がそう言うのも無理はなかった。6人いても、席は半分も埋まらなかったのだから。彼女の言葉に、樹は困ったような顔で答える。
「僕もそうは思うけど、用意されている物を使わないのも勿体ないだろ? まあ、好きなように座ってよ。マナーとか、特に気にする人もいないし」
そう言われて、陽葵は隅の席についた。彼女の隣に、夏穂が座り、その反対側には玲央が陣取る。渚と千秋は、彼女たちの向かい側の席を選んだ。
「アレルギーとか……あとは苦手な食べ物とかある?」
樹に問われて、5人は揃って首を振る。樹は彼らの答えを受けて、微笑みながら広間の奥に向かっていった。
「……何ていうか、樹くんは樹くんで大変そうだね」
陽葵がしみじみと呟く。その言葉に、他の面々も心の中で同意した。




