襲来
ゲームセンターに戻った陽葵たちは、樹と玲央の戦いを邪魔にならない場所から見守っていた。そこに、姫依は声をかけてくる。
「あら、佐藤さん。こんなところでお会いするなんて、奇遇ですわね」
柔らかな声に、陽葵と夏穂の表情が引きつる。横にいた千秋が目を細めて、少女を見た。
「……なんだ、知り合いか?」
「違う」
「ええ、そうですわ。初めまして」
夏穂と姫依が同時に答える。千秋は深いため息をついた。
「……そうか。アタシには分からないが、何か事情があるんだな。で? そこのお嬢さんは、何でアタシたちに声をかけた?」
「……私、少し考え直しましたの。今まで迷惑をかけてしまった分、お詫びをしたくて……」
姫依が悲しそうな顔をする。陽葵は何度か瞬きして、小さな声で言った。
「……お詫びって、何? 王生さんは、樹くんのことが好きだから、私のことは邪魔なんでしょう?」
その言葉に、渚は心配そうな目で妹を見る。千秋は更に険しい表情になった。そして姫依は、瞳に涙を浮かべて話を続ける。
「邪魔だなんて、そんな……昔の私とは違いますのに……」
「……あのさあ」
耐えきれなくなった夏穂が口を挟む。彼女は冷たい目をしていた。
「それ、もう遅いから。体育祭の時のこと、こっちは忘れてないからね」
その言葉に、姫依の動きが止まる。少女は涙に濡れた瞳を、陽葵に向けた。
「……佐藤さんも、そう思われていらっしゃるの? 私とは仲良くできないと?」
「……それは」
陽葵は言葉に詰まって、彼女の顔を見返した。銀色に光るナイフを握っていた時も、彼女は涙を流していた。そのことを、陽葵はよく覚えている。殺された日の記憶がフラッシュバックしてきて、息がうまくできなくなった。そんな彼女の後ろで物音がする。姫依が来たことに気づいた2人が、勝負を切り上げて戻ってきたのだ。樹が後ろから腕を伸ばして陽葵を抱え込み、玲央がゆっくりと前に出る。
「おい娘。これを見ても気づかないか? 貴様は陽葵に怖がられている。彼女がいくら優しいといっても、限度はあろう。陽葵のことを思うなら、今日のところは諦めることだな」
その言葉に、姫依は憂い顔で目を伏せる。そして彼女は、寂しそうな声で呟いた。
「……そう。それでは仕方がありませんね。今日は帰らせていただきます」
その言葉を残して、彼女は踵を返して去る。その姿が見えなくなって、陽葵はようやく息ができるようになった。樹が彼女を抱き寄せたまま、その耳元で囁きかける。
「ごめんね陽葵、遅れちゃって。もう大丈夫だよ。僕がついているからね」




