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お昼ごはん(後編)

「見てないで、2人も食べなよ」


「ふふ、ごめんね。陽葵(ひまり)が可愛くて、つい」


(いつき)が笑顔で頷いて、食事に手を付ける。玲央(れお)は難しい顔をした。


「俺はいい」


「なんで? ここのご飯、美味しいのに。それともお姉さんに遠慮してるの?」


「……そういうわけじゃないが」


視線を落として、彼が呟く。


「どうにも、こういうものには興味が持てん」


「じゃあこれ、はい」


陽葵が玲央の目の前に、チキンが乗った小鉢を突きだす。


「食べてみたら? 私も好きだし、美味しいからさ」


玲央が呆気に取られたような表情で皿を受け取る。その横で、パンにハムを挟んで食べていた樹が笑みを深めた。


「……ねえ玲央。人になろうとするのなら、まずは人間を知るところから始めなよ。君はもう、魔王でいるのは止めたんだろう?」


宿敵の言葉を受けて、彼は無言で食べ始める。少し離れた場所からそれを見ていた夏穂は、難しい顔で手を止めた。


(不思議な気分だ)


勇者と共に殺した相手が、そこにいる。水の四天王だった人魚族の姫と、彼女が仕えていた魔王。前世の記憶がない彼女はともかく、魔王はかつての戦いを覚えている。


(確かにあいつは、笑って死んでいったけど……)


それでも、何も引きずっていないどころか、人を理解しようとするまでになるとは思わなかった。


(……樹は、どう思ってるんだろうな)


食事を再開しながら、夏穂はかつての勇者を観察する。仲間に対しても、最期までその心を明かさなかった男。


(陽葵のことが好きなのは、本当だろうな。でも、それ以外は何も分からねえ。昔は魔族と戦うだけだったから、それでも良かったが……今はそうじゃねえ。アイツの本音が分からないうちは、信用できねえな)


夏穂が考え込んでいるうちに、テーブルに並ぶ皿は次第に空になっていく。渚が口元を使い捨てナプキンで拭きながら、穏やかな声音で問いかけた。


「みんな、もうお腹いっぱいかしら? 追加の注文はいい?」


「あ、はい!大丈夫です」


陽葵が答えて、食事は終わる。帰り支度を整えながら、夏穂は横目で樹を見た。


「……なあ、お前はこれで良かったのか?」


彼の態度は変わらない。優しげな笑みと、柔らかな口調。それは勇者と(たた)えられ、パレードの先頭に立っていた時と同じだった。


「どうしてそんなことを聞くの? 僕は今、幸せだよ。陽葵がいてくれるからね」


夏穂は渋い顔をする。そんな彼女を見て、彼は困ったような笑みを浮かべた。


「君は昔から、警戒心が強いよね。……これは僕の、掛け値なしの本音だよ。僕には何も必要ない。彼女以外は、本当に」

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