再会(後編)
魔族。人間とは相容れない生き物。魔王とは魔族の王のことで、四天王は魔族の幹部。陽葵が知るのはそれだけだ。だから眼前にいる不良たちがその転生体だと言われても、全く実感が湧かなかった。けれど夏穂の様子は、嘘を言っているようには見えない。
「……ねえ。魔族ってそんなに危険なの? そりゃあ前の世界では、そうだったかもしれないけど。今はどっちも人間なんだし、こっそり隣を通るくらいは……」
「……そりゃ、陽葵だけなら何とかなるかもね。でもオレはダメだ。アルトと一緒に、あいつらを倒した……殺した人間たちのうちの1人なんだから。奴らに記憶が無ければいいけど、あったら絶対目をつけられる。今のオレは女だし、ナイフも持ってない。複数の男たちに囲まれて、陽葵を守りきれる保証はないんだ」
その言葉に納得して、陽葵は静かに自転車をUターンさせた。そして夏穂が、彼女の後に続こうとした時。足元にあった小枝が自転車のタイヤに潰されて、パキリと乾いた音がした。
「ん? 誰かいるのか?」
不良集団の中心に居た少年が、その音に気づいて2人を見る。夏穂は息を止めて、その目を見返した。
「……お前」
「陽葵! 逃げろ!!」
少年が夏穂の顔を見て、片眉を上げる。それを見て、彼女は陽葵に向かって叫んだ。少年は薄い笑みを浮かべて、自転車を手放して逃げようとした夏穂の腕を掴む。
「その様子だと、お前も記憶を持っているのか。……面白い」
夏穂が唇を噛む。陽葵は無言で自転車に乗った。走り去る彼女の背を見ながら、少年が笑いを含んだ口調で言う。
「残念だったな。今回は、誰にも助けてもらえないとは」
「……いいんだよ、これで。お前らはオレに用があるんだろ。なんだ? 今更、死んだ時の憂さ晴らしでもするつもりか?」
「いや、そんなつもりはない。……そんなに警戒することはないだろう。俺たちにとっては、強さが全てだ。あの頃の俺たちは、弱かったから殺された。それは理解しているし、お前たちを恨んでなどいない。……今の体も、俺にとっては興味深い。少し無理をするだけで疲れるし、怪我もすぐには治らんし、腹も減る。人間とは本当に無力な生き物だ。だが、その無力な生き物が、1度は俺たちに勝った。その秘密を知りたくて、俺は人間として暮らしている」
少年はそう言って、夏穂から手を離した。既に彼女の周囲は、不良たちに囲まれている。少年は夏穂の足元にナイフを放り投げて、彼らを見渡して宣言した。
「お前たちは手を出すなよ。これは俺の獲物だ。……さあ武器を取れ、女。今世ではどちらが強いのか、決めようじゃないか」