お出かけ(後編)
「……よし、じゃあ行ってこい。せっかくなら勝てよ」
千秋は少しして、弟の頭を撫でるのを止めた。そして軽く、その背を押す。玲央は苦笑いを浮かべて答えた。
「まあ、できる限りのことはしますよ」
彼はそう言って、メジャーな格闘ゲームの台にコインを入れる。真剣な顔でレバーを動かす彼の横で、樹は同じようにコインを入れて先にキャラクターを選択した。画面の中で、彼の操作しているキャラが玲央の選んだキャラと向かい合う。樹は丁寧に繋げられるコンボを防ぎながら、その隙を狙ってカウンターを決めた。後ろで2人の操作を見ていた千秋が、腕を組んで渋い顔をする。
(なんだコイツ。ホントに何でもできるじゃねえか)
玲央が使っているのは、そのゲームでは最強だとされているキャラだ。それに対して、樹の方は少しテクニックが必要なトリッキーなキャラだが、彼はその性能を十分に引き出している。そしてどちらも、コマンドを完璧に使いこなしていた。
(そりゃあ、玲央が勝ちたいって言うわけだな。今の今まで、ゲームなんてほとんどやったことがないだろうに……)
千秋は樹に視線を向けた。ありとあらゆる場所でその名を聞く、御門グループの御曹司。金も権力も何でも持っている彼に勝ちたいと、玲央がそう言い出した時。彼女は初めに、弟の正気を疑った。けれど彼が、あまりに真剣に言うものだから。無理だとは思いつつも、できる限り鍛えてやったのだが。
(それでようやく互角かよ。どうなってんだ、コイツは)
樹は涼しげな顔をしている。それでも手を抜いているわけではないのは、キャラクターの動きで分かる。彼は本気で、玲央と相対していた。親の力も家の力も使わず、自分自身の力だけで。それなら勝てる見込みはあるはずなのに、一向に状況は変わらない。
「おー、やってるやってる。やっぱこっちの方が長引くよねー」
そこに、別行動をしていた女子組が合流してきた。夏穂がゲーム画面を見ながら告げる。
「悪いけど、次で終わりだから。待ち時間もそろそろだし、早めに決着つけちゃってよね」
その言葉に、2人は同時に息を吐く。そしてその直後に、溜まったゲージを使った必殺技のエフェクトが画面を埋めた。HPの割合で、最後に表示された結果はドロー。つまり引き分けだ。
「……ここまでか」
「仕方ないね。時間があれば、どちらかが勝つまで続けられたんだけど」
「いや無理だろ。減り方も一定だったし。あの調子ならどっちにしろ、1試合目はドローだよ」
2人の言葉に、千秋は目を細めて突っ込む。少年たちはバツが悪そうな顔で黙り込んだ。そんな彼らを見て、陽葵が千秋に尊敬の眼差しを向ける。




