息抜きタイム
「……樹くん? どうかした?」
倒れていた陽葵が起き上がって、心配そうに樹を見つめる。彼はその顔を見て、ゆっくりと息を吐いてから微笑んだ。
「……別に。何でもないよ」
そんな2人のやり取りに、夏穂は何とも言えない顔をする。樹の変化には彼女も気づいていて、どうしようかと思っていたが。
(オレが口を出すまでもなかったな。いつもは察しが悪いくせに、こういう時だけ聡いんだから……)
樹はもう、いつもの彼に戻っている。その姿を見て、陽葵は安心したように笑った。玲央が彼女に近づいて、横から話しかける。
「なあ陽葵。まだ時間はあるだろう。荷物を1度片付けて、遊ばないか」
「いいねそれ。トランプでもする?」
陽葵は笑顔で頷いて、机の上に広げていた教科書や参考書を片付け始めた。少し離れた場所から子供たちを見守っていた姉たちが、顔を見合わせて小声で話す。
「ちーちゃんの家に、トランプなんてあったかしら」
「あー……多分ねえなあ。スポーツ用品なら一通り揃ってんだが」
「そうよねえ。親御さんはどっちも、体を動かすのが息抜きになるタイプだし。……いっそのこと、外に連れていってあげる? 私とちーちゃんが一緒なら、滅多なことも起きないでしょ」
「……だな。よーしお前ら、外行くぞー。ちょうど昼だし、好きなもん奢ってやるよ。どこがいい?」
千秋が弟たちに向かって声をかける。玲央は微妙な表情を浮かべて返した。
「ならサンセリアで」
「おいこら玲央。お前、アタシをバカにしてんのか? 確かに安くてうめえけどよ」
「いや本当に、そういうところでいいんですよ。どれだけ高いレストランも、樹の普段の食事と比べると見劣りがするでしょうから」
一瞬で不機嫌になった千秋に向かって、玲央は淡々とした声で告げた。夏穂と陽葵が、その言葉に同意する。
「ですです。無理とかしなくていいです、マジで」
「そうですよ。私たち、あのお家に呼んでもらうことを前提にして予定を立てているので、豪華さとか派手さは全部そっちに任せてるんです。何でしたら、お姉さんも一緒に行きますか?」
千秋が呆気にとられたような顔をした。そんな彼女に、樹が柔らかく笑いかける。
「……まあ、否定はしません。我が家の料理長は、何でも人並み以上に作れる人ですから。僕自身も、外で食べる時はそういう店を選んでますね。その中でもサンセリアは、独自メニューが多めで面白いと思いますよ。まあ、コピーもできないことはないんでしょうが……それはそれで日常の楽しみが減るので、僕はしないようにしています」
穏やかな声で並べ立てられる言葉の数々に、千秋は呆れたような顔をする。そんな姉の様子を見て、玲央は苦笑を浮かべていた。
(会ったばかりだから、一応遠慮しているのだろうな。俺が同じことを言えば、その瞬間に拳が飛んでいたぞ)




