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65/201

樹の__

(なぎさ)千秋(ちあき)に連れられて戻ってきた玲央(れお)を見て、陽葵(ひまり)は顔色を変えた。


「ど。どうしたの? 傷だらけだよ」


「心配ない。いつものことだ。……それよりお前は、やるべきことを終えたのか?」


彼は彼女の問いかけに、柔らかな笑みを浮かべて答える。少女は心配そうにしながらも、手元の問題集に目を落として続けた。


「う、うん。あと少しで終わると思う。残ってるのは国語で、1番得意な教科だし」


「そうか。それなら早く終わらせて、残った時間は息抜きに当てるとしよう」


彼から穏やかな眼差しを向けられて、少女が戸惑ったような顔で頷く。夏穂(かほ)は彼の変化に首を傾げて、(いつき)は目を細めた。


(……ようやく自覚したのか。いつかはそうなると思っていたけど、思ったよりも早かったな)


彼は心の中でため息をつく。玲央が陽葵に()かれていることは、彼の目線では明らかだった。


(君はいつもそうだ。無自覚に男を引き付けて、気づきもしない。身の程知らずの馬鹿な奴らを、君から引き剥がすのに……僕がどんなに苦労したか、そんなことすら知らないで)


明るくて優しい、働き者の女の子。少し天然な所すら、可愛げとして受け取られる。前世の陽葵は、村の皆から愛されていた。同年代の少年たちにも人気があったが、前世の樹が勇者となって帰還したことで、彼らは軒並(のきな)み諦めた。もちろんそれは、樹にとっては計算通りのことだ。戦う前から勝てないと思わせて、恋敵が近寄らないようにする。後は時間をかけて、ゆっくりと彼女の恋心を育てていこうと。そう思っていた矢先(やさき)に、例の事件は起きたのだから。


(でも、今回は違う)


問題集を終わらせて、ペンを放り投げ、大の字になって寝転がる陽葵。そんな彼女を、温かな目で見つめる宿敵の姿に。樹は内心で歯噛みした。


(玲央は戦う前から諦めるような男じゃない。そしてまだ、陽葵は迷い続けている。僕にはまだ、幼馴染としてのアドバンテージがあるけれど、逆に言えば武器はそれだけだ。ここからいくらでも、ひっくり返される可能性はある)


宿敵が、人間の感情を理解しないままであれば良かった。けれど陽葵が、彼に感情を教えてしまった。その事実に、樹は頭が痛くなる。


(……君は本当に、僕の思い通りにはならないな)


そんな彼女が、少しだけ恨めしい。けれど、それ以上に愛おしくて。


(まあ、仕方ないか。相手は陽葵だし、それに。僕が優位(ゆうい)に立っているのは変わらないんだから)


樹は作り笑いを浮かべたまま、彼女に近づく。玲央がジト目で見てくるが、その程度では(ひる)まずに。彼は冷たい目をしたまま、恋敵と視線を交わした。

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