約束と予定
渚と夏穂の心配を余所に、スイカを食べ終えた陽葵は樹の力を借りて何とか数学の宿題を終わらせた。それから夕方までペンを走らせて、彼女以外の3人は宿題を完了させる。彼女も半分ほど終わらせて、疲れ切った様子で仰向きに寝転がった。
「あー、疲れた……もう参考書見たくない……」
「お疲れ陽葵。頑張ったね」
樹が柔らかな笑みを浮かべて陽葵を見つめる。玲央は冷めた目で2人を見ていた。そんな彼らを、少し離れた場所から観察しながら。渚はそっと声をかける。
「……ねえ陽葵、この後も勉強会をするんでしょ?」
「うん。次は来間くんの家でやるよ。来間くんのお姉さんにも会ってみたいし」
「…………そう。私もちーちゃんに久しぶりに会いたいから、ついて行ってもいいかしら」
「いいと思うけど……」
そう言いながら、陽葵が玲央に視線を向ける。玲央は彼女と目が合うと、少し柔らかい表情になった。
「姉さんの知り合いなら、問題ないと思うが。俺が知らないだけで、家に来たこともあるんだろう?」
「まあ、何回かはね。弟くんは外に出てばっかりだったから、確かにすれ違ってたかも」
渚が懐かしむような目をして言う。樹は目を細めて、話に割り込んだ。
「時間に余裕があるのなら、僕の家にもお招きしますよ。室内にプールや遊技場もありますから、それなりに楽しめるでしょうし」
「……いや、それは流石に」
渚が苦笑を浮かべる。
「お家の方にも迷惑でしょう? 急に人が増えたりしたら」
「僕、ほとんど一人暮らしのようなものなので、気を遣う必要なんてありませんよ。両親は東京を離れるのが嫌で、軒谷の家は管理人さんに任せっきりにしているんです。今、僕を送り迎えしてくれているのもその人ですね。こっちの家はその人と、お手伝いさんが数人しか居ないので、お客様が1人増えるくらい何でもないです」
樹が平然とした顔で答える。渚はその言葉を聞いて、心配そうな表情になった。
「……御門くんのお家って、山の上の大きな邸宅よね? ご家族がいらっしゃらないと、寂しいでしょう」
「いえ別に。陽葵と毎日会えるだけで、僕にとっては天国です」
彼は即座に言葉を返して、幸せそうに微笑む。
「元々、僕のことも会社を継がせるための駒としか見ていない人たちです。別れて暮らしていても、電話の1つもかかってこない。まあ、僕も連絡する気はないので、お互い様なんですが」
笑顔で言い切った樹を横目に、玲央が淡々とした声を出す。
「貴様はそもそも、そんなことを気にする質でもあるまい。自由に好きなことができるのは、むしろ楽な方ではないのか?」
樹はその言葉を否定せず、笑みを深めているだけだった。2人の間に、何とも言えない緊張感が生まれる。陽葵が間に入るまで、その緊張は続いていた。




