陽葵の家での勉強会(後編)
「大丈夫だよ、陽葵。いざとなったら、僕のお嫁さんになればいいんだから」
その場の空気をまったく読まずに、樹が笑顔で話に入ってくる。
「僕はいずれ父さんの会社を継ぐから、君を一生養うことくらい簡単にできるよ。困ったらいつでも頼ってね」
満面の笑みで告げられて、陽葵は黙って目を逸らした。彼女の姉が目を丸くして樹を見る。
「……え。御門くんって、もしかしてかなり凄い子なの?」
「あはは、まあ……一応御門グループの後取りですね」
「凄い子じゃない! え、そんな子がどうしてこんな所に……」
「……父に決められた婚約が気に入らなくて。10年かけて社長になるのに必要な知識をつけて、ついでに会社の業績も伸ばして真っ向からお願いしたんです。『僕は運命の人に会いにいくので、止めないでください』って」
「どういうこと?!」
姉が大きな声で叫ぶ。陽葵は顔を上げられなくなった。いくらなんでも。
「アンタそれ、だいぶ誤解されるわよ」
陽葵の代わりに夏穂がツッコむ。樹は笑みを崩さず返した。
「別に、僕は誰に誤解されてもいいよ。陽葵が分かってくれてれば」
「……貴様は本当に変わらんな。それとも、愛というのはそういうものか?」
彼の言葉を聞いた玲央が、淡々とした声音で言う。それに対して、陽葵の姉は難しい顔をした。
「うーん……御門くんは、かなり特殊な方だと思うわ。あまり参考にはならないような……」
「……そういうものですか。俺にはよくは分からなくて……。まあ、それでも陽葵が困ったなら助けますよ。樹に頼りたくないのなら、俺のところに来ればいい。奴と違って、具体的なことは言えなくても……女を1人養うくらいの事は、俺にもできると思うので」
玲央の声が少しだけ柔らかくなる。姉は思わず陽葵の肩を掴んで、その耳元で囁いた。
「ど、どうしたの陽葵。モテモテじゃない」
「……いやそれが、ちょっと複雑な事情があって……」
陽葵は言葉を濁しながら姉を見た。前世のことを伝えても、記憶のない彼女には通じないだろうと。そう思いながら、彼女は言葉を選んで話す。
「なんか、樹くんと来間くんは元々対立してたみたいで……学校で樹くんと出会って告白されてから、来間くんにも絡まれるようになって。それを何とか交わそうとしてたら、そのうち来間くんからも告白されて……」
話せば話すほど、姉は心配そうな表情になっていく。そして妹の話が終わった後に、彼女は真剣な顔をしてその両肩を掴んだ。
「ねえ陽葵、あなたは自分を大事にしてね。困ったことがあったら、いつでもお姉ちゃんに相談しなさい。いいわね?」
「う、うん、分かった。困った時は絶対、お姉ちゃんに言うよ」
その勢いに押し切られる形で、陽葵は姉と約束する。それでも姉は心配が隠せない様子で、妹を見守っていた。




