陽葵の家での勉強会(中編)
「ま、まあとりあえず宿題やろうよ」
陽葵は部屋の隅に置いてあった鞄を引っ張り出しながらそう言った。その言葉を聞いた3人は、何とか気持ちを切り替えて荷物を開く。そして4人は部屋の中央にある丸机を囲んで、輪になって座った。陽葵の姉は少し離れた場所から、4人の様子を見守っている。こうして少しワチャワチャしながらも、勉強会が始まった。
「……あれ、ここどうするんだっけ……?」
宿題をやりだしてすぐに、陽葵のペンが止まる。彼女が今やっているのは、数学の問題集だ。樹や玲央は当然として、夏穂も基本的には理系科目の方が得意なので、その問題集は真っ先に終わらせている。
「……どれどれ……って、アンタ、これ初歩の2次方程式じゃない。しかも公式使わなくていいやつ。これはまず因数分解して……って、聞いてる?」
「…………う、うん。今の時点で、話が全然分かんないけど」
問題集を覗き込んだ夏穂が、陽葵の答えを聞いてため息をつく。彼女は自分のノートに計算の過程を書いて、陽葵に見せながら説明した。
「だからね、これとこれって一緒でしょ? てことはここはこう書き直せるわけ。で、こう書くと計算しやすくなるのも分かる?」
「……分かんない……」
陽葵が困ったような顔で言う。夏穂は頭を抱えた。
「アンタ、それでよく一高に入れたわね。いっそのこと、小学校からやり直した方がいいんじゃないの」
「うう……だって仕方ないじゃん! そもそも、夏穂は何でそんなに計算が速いの? 前はそうでもなかったよね?」
「そりゃあ計算が早くないと、元の値段がすぐに分かんないから値切れないし……」
話の途中で、夏穂はふとあることに気づく。そして彼女は、目の前で不満そうにしている友人に向かって告げた。
「ああそっか。前世で相場とか原価の計算ばっかりしてたから、慣れてるんだ」
「ズルい!!」
陽葵が大声で叫ぶ。姉は目を白黒させて、妹がいる方に視線を向けた。
「……ね、ねえ、本当に大丈夫……?」
心配そうな顔をする彼女を放って、陽葵は親友に詰め寄る。
「ズルいよ皆! 私は前世で勉強したことなんか無かったのに!!」
「それは仕方ないでしょ。そもそも前世での教育制度なんて、今と比べて質が低かったもん。やっててもやってなくても、そこまで大きな違いはないわよ。アンタは単に、積み重ねが足りてないだけ。小中でやったことが身についてないから、新しいことを勉強しても分からなくなるのよ。大人しく最初からやり直しなさい」
夏穂は淡々とした声で切り捨てる。その言葉に、陽葵は何も言い返せなかった。




