夏休み前の昼休み
「そういえば、陽葵は夏休みどうするの?」
恒例となった昼食会。もはや警戒もしなくなった夏穂が、弁当をつつきながら問いかける。陽葵は箸を咥えたまま考え込んだ。
「……そうだねえ。お姉ちゃんが帰ってくるから、できれば家に居たいけど……夏祭りには行くかなあ」
しばらくして、口の中の物を飲み込んだ彼女が答える。玲央はその横顔を見つめながら割り込んだ。
「お前の姉か。1度は会っておきたいな」
「別に、普通の人だよ? 前世で会ったこともないし」
「それでもだ。……なあ樹《いつき》、お前も同じ気持ちだろう?」
「そうだね。陽葵のお姉さんには、ちゃんと挨拶しておきたいな」
苦笑を浮かべて、樹が頷く。そんな2人を見て、陽葵は困ったように笑った。
「えー……。じゃあ、樹くんの妹さんと、来間くんのお姉さんにも会わせてくれるならいいよ」
「もちろん、僕はそれで構わないよ」
「……俺の姉か。少し面倒な性格だが……まあ、お前たちなら構うまい」
その言葉を、樹は笑って受け入れた。玲央も難しい顔をしていたが、最終的には彼女の提案を飲む。そんな男たちを呆れたような表情で見ながら、夏穂が話を纏めた。
「まあ宿題もやらなきゃだし、勉強会を兼ねてそれぞれの家に集まるっていうのはありかもね。宿題が早めに終われば、遊ぶ時間も多くなるし?」
「そうだね! 樹くんは学年1位で、来間くんは2位だもの。2人に教われば、分からないところもすぐ終わりそう」
「……前から疑問に思ってたけど、やっぱおかしいわよね、それ。出席率の良い樹がトップなのは分かるけど、なんでろくに授業にも出てないコイツが2位なのよ。おかしくない?」
「そこまで不思議なことか? 人の作る試験など、初日に買った本を1冊覚えるだけで済む。言っておくが、俺は問題を間違えたことなど無いぞ」
「僕もそうだよ。多分だけど、出席点で上下を判断してるんじゃないかな?」
不満そうに呟いた夏穂に、玲央と樹は何でもないような顔をして言う。そんな2人の言葉を耳にして、夏穂は大きなため息をついた。
「……何それ。アンタたち2人とも、どういう頭してんのよ」
空になった弁当箱を包み直して横に置き、彼女は机の上に伏せる。明らかに納得がいっていないその様子を見て、陽葵は苦笑を浮かべた。
「まあまあ、夏穂だって特別成績が悪いわけじゃないし……」
「そりゃ、アンタに比べれば少しはね」
夏穂はジト目で陽葵を見る。そして彼女は続けて告げた。
「アンタは夏に、基礎からしっかり叩き込んどきなさいよ。いつも赤点ギリギリだし」
陽葵はバツが悪そうに目を逸らす。教室の外では、セミが大声で鳴いていた。




