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梅雨明け

降り続く雨が、次第にまばらになっていく。陽葵(ひまり)が3年間の猶予(ゆうよ)を得て、それからおよそ1ヶ月。テレビが梅雨明けの速報を流す頃には、昼休みの集まりは4人の日常となっていた。


(不思議なものだ)


空き教室の隅で、椅子に座って足を組みながら。玲央(れお)はボンヤリと外を見ていた。今は4時間目が始まった頃で、外は曇り空だが雨は止んでいる。屋上の床は濡れているから、今日はここに来るだろうと。そんなことを考えている自分に気づいて、彼は目を細めた。


「……何をしているのだろうな、俺は」


陽葵の笑顔が脳裏に浮かぶ。彼女と関わってからずっと、彼はペースを乱されてばかりだ。何よりも、彼が問題視しているのは。


(状況は、決して良くなってはいない。だというのに、我は……こんな今も、悪くはないと思っている。何故だ?)


魔王だった頃の彼は、人間から負の感情を向けられたことしかなかった。ただ1人、彼の立場と生き方に理解を示した男とも、結局は対立するしかなかった。そして。その全てを、彼はごく自然に受け入れていた。力で(かな)わなかったのだから、これは必然であると受け止めて。目を閉じ、死を受け入れたはずだった。それが、同じ人間として転生したというだけでも意外だったというのに。


(まさか、奴が気に入っている娘に会うとはな)


人間の持つ感情を、彼は知らない。それでも人間の真似事をして、今まで生きてきた。全てはもう1度、(いつき)と戦って勝つために。


(だが、今の俺は……)


思考が(よど)む。彼の胸の奥には、既に彼女に対する情が()き始めていた。


(……陽葵。この俺と対峙しても(おび)えず、敵意もなく、気が抜けたように笑う女。俺は、お前のことを……)


それが愛だとは断言できない。ただ、心は少しずつ(かたむ)いている。


「……まずいな」


彼はゆっくりと首を振って、大きく息を吐いた。


「この我が、ここまでかき乱されているとは……」


そう言いながらも、彼はそれ以上の行動を起こさない。そんな彼を見て、(ゆずる)は黙って(かおる)と視線を交わした。


(ねえ、どう思う? どう考えてもおかしいよね)


(そうですね。魔王様にしては珍しい。……それほど、あの娘を気に入っているということでしょう)


この世界には魔法はない。それでも、前世から彼に仕えてきた2人は、言葉にしなくとも完璧に意思疎通が取れていた。


(そっかあ。魔王様にも、ようやく望みができたんだね。まだ気づいてないみたいだけど……)


(そのような時のための我らです。記憶のないレギーナと、姿の見えないヨルンの分まで。我々が魔王様の補佐をしましょう)


2人にとって、それは当然のことだった。彼は生まれ変わっても強く気高い、2人の理想の主君だったのだから。

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