似たもの同士
薄暗い空の下、人気のない校舎の片隅に立ち尽くして。その少女は、一部始終を見守っていた。
「……ああ。これでは、来間さんには期待出来ませんわね」
口元に手を添えて、姫依は悲しげに呟く。その目線の先、窓の向こうでは、陽葵が笑って手を振っていた。彼女を見つめる玲央の眼差しは、それまでの彼とは少し違っている。姫依は詳しいことは知らなかったが、その様子を見ただけで大方の事情を察した。玲央も樹と同じく、陽葵を傷つけることだけはしないのだと。
「なんて期待外れ。魔王というなら、せめてそれらしく振る舞えばいいのに」
冷たい声音が、無人の廊下に反響する。その言葉を聞く者はいない。そのはずだった。
「あれ? まだ人、残ってたんだ。駄目ですよぅ、早く帰らないと」
風紀委員の腕章を付けた生徒が、廊下の向こうから歩いてくる。姫依は目を細めて、柔らかな笑みを浮かべた。
「……あら、ごめんなさい。あなたは1年生の方かしら」
「そうですよ〜。委員会の活動で、先生のお手伝いをしているんです」
「そう。でもそれなら、私よりも先に注意すべき方々がいるでしょう?」
「ええっ? 無理ですよぅ、そんなの。あの人たち、先生の話なんて聞きませんし。……それにホラ、あそこには来間くんがいますから。学校に残ってくれるのも嬉しいですし?」
そう言って、照れたように笑う少女を見て。姫依は目を見開いた。
「あなた、風紀委員なのに来間さんに憧れているの?」
「そうですよ。元々この委員会に入ったのも、少しでも彼と関わる機会を増やしたかったからですし。でも予定外でした。まさか、来間くんが特定の女の子に拘るようになるなんて。あの子もどういうつもりなんでしょうね。振るならキッチリ振ってくれればいいのに、半端に関わったりして」
笑う彼女の目の奥に僅かに垣間見えるのは、姫依が抱いているのと同じ執着心。それに気づいて、姫依は笑みを深める。
「……ねえ。それならあなた、私と手を組まない? 私はあの子から、樹様を奪いたいの」
「え〜? 手を組むって、ボクはあの人のことなんてどうでもいいんですけど。よく分かりませんけど、あの人、あの子のことが好きなんでしょう? 別にいいじゃないですか。そのままくっついてくれれば、来間くんも諦めるでしょうし」
差し出された手を見つめて、少女が笑う。その、自分のことしか考えていない言い草に。姫依はますます嬉しくなった。
「それでいいわ。私だって、あの子が樹様から離れてくれるのなら、誰と一緒になってもいいし」
差し出した手を引っ込めて、姫依はその身を翻す。そして見知らぬ少女の視線を背中に感じながら、彼女はその場から立ち去った。




