どこまでも自由な娘
「なんだ、僕が心配するまでもなかったね」
それからしばらくして。最初に口を開いたのは理仁だった。相変わらずの無表情で、彼は玲央の腕を掴んでいた手を離す。陽葵は少し嬉しそうに、彼を見た。
「……ううん、ありがとう。燕谷くんが守ってくれたの、嬉しかったよ」
「別に。僕はただ、玲央が弱い者いじめをするところを見たくなかっただけだから」
彼は淡々と答えて鞄を背負う。その背に向かって、陽葵は言った。
「それでも、感謝してるよ」
彼は何も言わず、去っていく。それを見送って、陽葵も帰り支度をし始めた。呆然としていた夏穂が、そこで初めて動き出す。
「あ、あのさ、陽葵……今日くらいは、アタシも一緒に帰ろうか?」
「ううん、大丈夫。夏穂に迷惑をかけちゃうし。……平気だよ。私は1人で帰れるから」
どこかスッキリしたような顔をする陽葵を見て、夏穂はそれ以上のことが言えなくなった。鞄に荷物を詰め終えた陽葵は、それを背負って穏やかに微笑む。
「でも、校門までは一緒に行こうよ。樹くんと来間くんも、良かったら」
その言葉に。樹は深いため息をついて、玲央は目を丸くした。
「……貴様、どういうつもりだ?」
「どうって、そりゃあ」
どこまでも明るく、前向きな表情で彼女は告げる。
「答えを出すのは3年後だけど、それまで何もしないなんて言ってないもの。私は来間くんのことを何も知らないし、あなたがそれでもいいのなら、友達にはなれると思うから」
「…………我が言うのもどうかと思うが」
玲央は目の前にいる彼女を見つめて、呆れと感心が半分ずつ混ざったような顔で言葉を発した。
「貴様は少し……いや、かなり楽観的過ぎないか?」
夏穂が無言で目を逸らす。樹は気を取り直して陽葵に歩み寄り、笑顔でその肩に手を置いた。
「いいだろう? 僕の大切な、可愛い子だ。3年と言わず、本当はずっと守ってあげたいけど……陽葵の答え次第では、離れてもいい。でも、まあ心配ないかな。君がずっと理解できないままなら、最後に勝つのはこの僕だ」
楽しそうに、彼はそう宣言する。それを見て、玲央は渋い顔をした。
「……そう言われると、我としても引けぬな」
そうして4人は連れ立って、教室の外に出る。放課後の廊下は人気もなく、グラウンドから人の声が聞こえてきたり、音楽室から楽器の音が漏れ聞こえてくる程度の静かなものだった。特に話すこともなく、短い距離を歩いた先で、靴を履き替えて外に出る。
「じゃあね、また明日」
そこで陽葵は、ニコニコと笑って手を振った。そうして、樹と玲央が物言いたげに見つめる先で。彼女は親友と手を繋いで、駐輪場に向かって歩いていった。




