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再会(前編)

説明が終わって、先生に連れられ、陽葵(ひまり)は他の生徒たちと一緒に体育館に向かう。そして入学式が始まった。校長先生の話、来賓からの祝辞(しゅくじ)、生徒会長の挨拶。それらは何事もなく過ぎていった。陽葵にとって問題だったのは、入学生代表の挨拶。壇上(だんじょう)に上がり、落ち着いた調子で話している、同級生の姿だった。


(……嘘。嘘でしょ、アルト……?)


前世の幼馴染と同じ顔。同じ声。同じ(たたず)まいに、確信する。そこにいるのは間違いなく、陽葵を追ってきたという彼だ。


(ど、どうしよう。クラスも違うし、多分会うことはないと思うけど……)


そこまで考えて、彼女は唐突に気がついた。自分だけではない。親友にも、前世の記憶があるのだと。


(って、違う! メルヴィンくんがいるんだから、アルトが私に会いに来るのは時間の問題じゃない! アルトに前世の記憶がなければいいけど、あったら私はどうすれば……)


彼女は別に、幼馴染のことが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。けれど。


(私は1度死んだ人間だし、前世の記憶なんて普通なら存在しないはずのもので、佐藤陽葵の人生を変えるわけにはいかないわ。私は彼女の分まで、平穏に暮らさなきゃなんだから!)


16年間の彼女の人生は、平凡すぎて味気のないものだった。けれどそれは、彼女が平和に暮らしてきたことの(あかし)だ。ファンタジーに憧れていたのは確かだが、アイルーズには何の力もないため、彼女を守りきることはできない。


(転生してまで、私を追ってきてくれたアルトには悪いけど……私も彼も、もう死んだ人間だもの。この世界に生きる人たちの生活を(おびや)かしちゃいけないわ)


そんなことを考えているうちに入学式は終わって、陽葵は来た時と同じように列になって教室に戻った。担任教師が明日からの説明をして、その日はそれで終わる。


「ねえ陽葵! Aクラスに、彼がいるんだって! 行ってみようよ」


帰り際。カバンを背負った夏穂(かほ)が声をかけてくる。きっとそうなるだろうと予想していた陽葵は、穏やかな笑みを浮かべて首を横に振った。


「……いいよ、私は。今更、どんな顔をして会えばいいのか分かんないし」


「そう? アイツは喜ぶと思うけどな〜。ま、陽葵がイヤならやめとこか」


「……いいの?」


「いいも何も、オレ……いや、アタシは陽葵の友達だからね。アイツの行動力から考えて、そのうち会いにくるとは思うけど。それまでは、そっとしておいてあげるよ」


そう言って、(ほが)らかに笑った親友に。陽葵は心から感謝して、一緒に教室を出た。

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