樹と陽葵のすれ違い(後編)
「……君は本当に変わらないね」
樹が目を細める。嬉しさの中に少しだけ切なさが混ざった表情で、彼は陽葵を見つめていた。
「僕は君の特別になりたい。……英雄になったって、君が僕を見てくれないんじゃ意味がない。どんな力を持っていても、君が魅力的だと思ってくれないなら、それは僕にとっては必要のないものだ。……ねえ陽葵。君はどうして、僕より先に、アイツを頼ったの?」
「どうして、って」
陽葵が何度かまばたきする。
「別に、そんなに深く考えてないよ、私」
彼女は窓の方に目線を向ける。雨はまだ止んでいない。
「ただ、体育祭で目立っちゃって、自分の教室には居づらかったから。どうしようかなって思ってたら、燕谷くんに声をかけられて……成り行きでここに来ただけ。来間くんに断られたら、別の所に行こうと思ってたよ。……ほら、隣の教室も、あの人が居るから避けたくて……」
「なるほど、話は分かったよ。……それで、さっきも名前を聞いたけど、燕谷くんって誰?」
樹は簡単には引かなかった。笑顔で圧をかけられて、陽葵は一歩後ずさる。
「……ええと、同じクラスの男の子で……帰る方向が同じで、通学方法も同じ子だよ。前に1回、声をかけられたことがあって……」
「元は火の四天王だった奴だよ。お前も覚えてるだろ、火山に住んでた竜族の女。もっとも今は、その記憶は無いみたいだけど」
夏穂が横から補足を入れる。樹は更に圧力を増した。
「魔王の配下か。陽葵はその子と仲がいいの?」
「そういうわけじゃないけど」
「けど?」
「……燕谷くんは、私のことを避けないから。夏穂もそうだけど、それは中学校からの友達だからだし……。前世の記憶もないのなら、そういう事とは関係なく、友達になれるかもしれなくて……」
陽葵の言葉に、樹の表情が厳しくなる。彼女の後ろで、我関せずといった顔で見ていた玲央が口角を上げた。
「……なるほどな。お前は我や其奴より、理仁のような男を好むのか」
「だからそういうことじゃなくて……」
彼の言葉を、陽葵は即座に否定する。そして。
「私は友達を増やしたいだけなの。最初はどうなることかと思ったけど、結果的に来間くんとも仲良くなれたし……記憶がないなら前世のこととかも関係なく、友達になれるかなって思ってるだけだから」
彼女は平然とした表情でそう言った。その言葉を聞いた樹と玲央が、呆気に取られたような顔をする。夏穂は深いため息をついた。
「……あのさあ陽葵。それは気楽すぎるでしょ。コイツはともかく、向こうの奴はアンタのことなんて、どうでもいいと思ってるわよ。アイツはそういう男だし」
彼女は樹の後に玲央のことを指差して、呆れきった口調で告げた。




