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陽葵と樹のすれ違い(前編)

同時刻。(いつき)陽葵(ひまり)を探して、学園内を回っていた。降り続く雨の音を聞きながら、彼は黙って階段を上る。その先で。


「こんにちは、樹様。このような所でお会いするなんて、奇遇ですわね」


彼は姫依(きい)と出会った。微笑む彼女を無視して、彼は先に進もうとする。その背に向かって、姫依は柔らかな声音で言った。


「そういえば、佐藤さんのことですが……彼女はどうやら、来間(くるま)さんに会いに行ったようですわ」


その名を聞いた瞬間に、樹が足を止める。姫依はそれを見て笑みを深めた。


「気になるのでしたら、私が案内いたしますが……」


「……要らないよ」


樹は低い声で吐き捨てた。


「彼らの()まり場なら知っている。君の手を借りる必要はない」


冷ややかな声に、姫依は残念そうな顔をする。樹は無言で彼女の横を通り抜けて、3階の空き教室に向かって足を進めた。そこにちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、教室から2人が出てくる。樹は黙って、陽葵の前に立ち(ふさ)がった。


「……あ」


陽葵が彼を見上げて目を見開く。彼は陽葵の頬に手を添えて、暗い笑みを浮かべた。


「ようやく見つけたよ、陽葵。どうしてこんな所に居たの?」


「え。ええと……」


陽葵は困ったような顔をした。その後ろから、笑いを含んだ声が聞こえてくる。


「貴様が不甲斐ないからだろう。その女は、我の庇護を求めてきたのだ。そして我は、王としてそれに(こた)えただけ。何も不思議なことではない」


夏穂が咄嗟に、その言葉に反論しようとする。けれどその前に、陽葵が樹の目を見返して話を続けた。


「そうじゃないよ。樹くんも誘おうかと思ったけど、燕谷くんを待たせちゃうのも悪いと思っただけだから。……でも、そのおかげであの人から樹くんの話が聞けた。私のために、辛いことも耐えてくれたんだって」


「…………いったい何の話をしてたの」


樹が深いため息をついて、苦笑を浮かべる。


「君が気にすることじゃない。僕は僕の意思に従って動いただけだ。罪も罰も、僕が全て引き受ける。君はただ、平穏な世界で幸せに暮らしていてくれさえすれば、それでいいんだ」


「……樹くん」


陽葵は悲しげな目をしていた。


「でも、それじゃあ私はいつまで経っても、何も知らないままでいることになる。それは嫌なの。私だって、樹くんの力になりたい。あなたに全部背負わせて、笑っているなんて……そんなの全然幸せじゃないよ」


陽葵の言葉に、樹は何も言えなくなる。その瞬間に、5時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

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