空き教室の不良たち(前編)
4時間目の授業が終わって、理仁は無言で席を立った。陽葵は夏穂と一緒に弁当箱を持って、彼の後に付いていく。彼は階段を上って、廊下の突き当りを右に曲がった先の正面にある扉を開けた。
「あ、理仁じゃん。どーしたのー?」
「誰かと思えばお前だったか。ここに来るとは珍しいな」
部屋の中にいた玲央たちが、開いた扉の方に視線を向ける。理仁は表情を変えずに、後ろにいる2人がよく見えるように横に移動した。
「君たちに用があるのは、僕じゃなくて彼女だからね」
陽葵が緊張の面持ちで前に進み出る。玲央は一瞬だけ驚いたような顔をして、その後に口角を上げた。
「……ほう? お前が奴抜きで来るとは思わなかったな」
「お邪魔なら、帰ります」
陽葵は玲央の目を見ながら、小声で返した。玲央は上機嫌で話を続ける。
「いや、俺は別に構わない。理仁もどうだ、たまには」
「僕は教室に戻るよ。ここには彼女を案内しに来ただけだし」
理仁は真顔で言い切って、さっさと部屋を出ていく。その背が見えなくなってから、夏穂は真剣な表情で言った。
「アイツは覚えてないんだな。前世のこと」
その言葉を聞いて、陽葵が不思議そうに首を傾げる。玲央は笑みを浮かべたまま頷いた。
「そうだな。……我としては、人間の諍いなど大したことではない。好きにすればいいと思うが……懐かしい顔をした奴が巻き込まれていて、つい手を出してしまった。アイツも前世の記憶があれば、もう少し器用に立ち回れたのかもしれんが……まあ、記憶があっても変わらぬな。レギーナは以前から、誰とも慣れ合おうとしなかった」
懐かしそうに語る彼と、複雑そうにしている夏穂。そんな2人に挟まれた陽葵は、以前から気になっていたことを聞いてみた。
「……あなたは魔王だったんでしょう? この世界でも同じように、人を殺そうとは思わないの?」
「何か勘違いをしているようだが」
玲央は彼女の質問に、笑みを深めて答えた。
「我は人を殺したかったわけではない。命乞いをしてくる人間は生かしてやったし、有用であれば取り立ててやることもあった。人間たちは魔族が一方的に人間を殺していると言っていたが、人の側に付く魔族もいれば、魔族の側に付く人間もいた。あれはただの戦争だ。魔の国と人間の国が戦い、人間の側が勝ったというだけのこと。正義はどちらにもあり、勇者も潔白ではいられなかった。……もっとも、奴はそのことをよく知っていて、その上で剣を取ったようだがな」
夏穂が渋い顔をする。けれど彼女は、彼の言葉を否定しなかった。そのことで陽葵も痛感する。幼馴染が見てきたものは、彼女が思っていたよりもずっと酷い光景だったのだと。




